お母さんの靴は駅にあります

【ひかり野こども園・面談記録】

園児:小海沢透真、五歳

記録者:担任

 透真君の母、沙紀さんは十日前から行方不明です。

 父親の健介さんからは、「夫婦げんかのあと、妻が自分の意思で家を出た。子どもには旅行中と説明してほしい」と連絡を受けています。

 本日、自由画の時間に透真君が夜の駅を描きました。

 線路の前に赤い靴とスマートフォン、その横に父親らしい人物がいます。

「お母さんを駅まで送ったの?」

「お母さんは行ってないよ。靴と電話だけ」

「誰が持っていったの?」

「パパ。ぼくも車で一緒に行った」

 透真君は、父親がホームのベンチへ靴を置き、スマートフォンを線路沿いの草むらへ投げたと話しました。

「そうすると、ママが歩いて遠くへ行ったことになるんだって」

 意味を確認するため、別の絵を描いてもらいました。

 自宅の庭、物置、大きな灰色の石。石の下に、横になった女性が描かれています。

「これは誰?」

「ママ。まだおうちにいるよ」

「どうして石の下にいるの?」

「パパが寝かせたから。夜にけんかして、ママが動かなくなったの。土のお布団をかけないと寒いでしょう?」

 透真君は笑顔で答えました。

 父親からは、庭の物置周辺を工事しているため、子どもを近づけないよう言われていたそうです。

 後日確認できるよう、発言は録音し、絵二枚とともに保管しました。

 園長へ報告し、警察へ連絡しました。

 透真君には、父親へこの話をしたことを伝えないよう説明しました。

 すると透真君は首を振りました。

「パパ、もう知ってるよ」

「どうして?」

「先生にお話ししたら、先生もママの隣で寝かせるって言ってたから。だから今日、いつもより大きい車で迎えに来るの」

 そのとき、園のインターホンが鳴りました。

 モニターには健介さんが映っていました。

 後ろには、荷台を青いシートで覆った軽トラックが停まっています。

 透真君はうれしそうに窓へ駆け寄りました。

「先生、パパが迎えに来たよ。今日は先生も一緒に帰る日だって」