アルバムの終点

 彼女は日に日に元気になっていった。

 最初の写真では、病室のベッドに腰掛け、鼻の管を指で隠して笑っている。次の一枚では立ち上がり、窓辺まで歩いていた。さらに次では杖が消え、頬に赤みが戻っている。

「よかったな」

 私は画面へ話しかけた。

 髪は一枚ごとに豊かになり、白いものが減った。痩せていた肩にも丸みが戻る。病院の庭にいた彼女は、やがて自宅の食卓へ移り、蝋燭の火を吹き消した。六十七本あったはずの蝋燭は、次の誕生日には六十六本になった。

 娘も若返っていった。母親の車椅子を押していた娘は、次の写真で大学の角帽をかぶり、その次には高校の制服で頬を膨らませていた。やがてランドセルを背負い、最後には彼女の腕の中で眠る赤ん坊になった。

 家も狭くなった。郊外の一戸建てが古い団地へ戻り、壁の家族写真が減っていく。結婚二十五周年の銀の指輪は新品になり、そのうち彼女の指から消え、私のポケットの小箱へ収まった。

「もうすぐ、私を知らなくなるね」

 画面の彼女は答えない。

 次の一枚では、白いドレスを着た彼女が私の隣で笑っていた。その次では二人とも普段着になり、喫茶店の小さな卓を挟んでいる。さらに進むと、私たちは別々の友人と海にいた。まだ互いを知らないころだ。

 最後の写真は、町の書店だった。

 高い棚へ手を伸ばしていた彼女に、若い私が本を取って渡している。写真を撮った友人は、偶然居合わせた二人が後に夫婦になるとは知らなかった。

 画面の中で、彼女が初めて私へ振り向く。

「ありがとうございます。あの、お名前は?」

 そこで写真は終わった。

 画面上部には、最初から表示されていた。

〈並び順――新しい順〉

 私は彼女が回復していく記録を見ていたのではない。昨夜亡くなった妻の人生を、最後から最初へ逆に歩いていたのだ。

 机の横には、小さな骨壺がある。

「初めまして」

 私は、まだ病気も私も知らない彼女に頭を下げた。

 時間を戻せるのは写真の中だけだったが、最後にたどり着いたのが別れではなく出会いだったことを、少しだけ救いだと思った。