ストーブ前の順番

冬の朝、千景が石油ストーブをつけると、猫の「朔豆」が最初にやってくる。

点火の匂いが消えるまで少し離れて待ち、橙色の火が安定すると、いちばん温かい場所へ丸くなる。千景が座布団を置いても、その上には乗らない。床から直接伝わる熱が好きらしい。

今年、母の壽江が同居を始めた。足腰が弱く、朝はストーブの前で靴下を温めてから履く。

最初の日、壽江と朔豆は場所を譲り合わなかった。壽江が椅子を寄せると朔豆が睨み、朔豆が伸びると壽江が足を引く。

「この子、愛想がないねえ」

「母さんに似たんじゃない」

朝食の支度をしながら千景が笑う。

三日目、壽江は古い膝掛けを持ってきた。半分を自分の脚へ、残りを床へ垂らす。朔豆はしばらく匂いを嗅ぎ、垂れた部分へ乗った。

二人の距離は膝掛け一枚分になった。

壽江は新聞を読み、朔豆は腹を上下させる。ストーブの上では薬缶が小さく鳴り、台所から焼いた味噌の匂いが来る。

ひと月後、千景が寝坊して居間へ行くと、壽江の膝に朔豆がいた。手は猫の背へ置かれ、どちらも眠っている。

「愛想がないんじゃなかった?」

声をかけると、壽江だけが目を開けた。

「寒いから仕方ない」

朔豆は起きず、喉を低く鳴らした。

春が近づき、ストーブを消す日が増えた。それでも壽江は同じ場所へ椅子を置き、膝掛けを半分垂らす。火のない朝、朔豆は迷ってから布へ乗った。残っていた灯油と日なたの匂いが、二人の間でゆっくり温まった。

ストーブを片づける日、壽江は灯油を抜く千景のそばで、膝掛けを畳んだ。朔豆は空いた台の匂いを嗅ぎ、不満そうに鳴く。翌朝、壽江は薬缶の代わりに湯を沸かし、温かい茶を二つの湯呑みへ注いだ。片方は千景の分だ。朔豆には窓辺へ座布団を置く。猫はしばらく迷ったあと、壽江の椅子と日なたの中間へ横になった。暖房のない部屋にも、三人が毎朝集まった場所だけ、火の形をしたぬくさが残っていた。