一秒先の足跡

「一秒先しか分からない鑑定士など、無能と同じだ」

勇者ガレフは追放状をノアドの胸へ押しつけた。

【未来鑑定:触れた対象の、一秒後の状態だけを表示する】

現在の強さも弱点も見えない。結果が出るころには現実が追いつく。王都防衛隊への推薦も取り消され、ノアドは城門を出ることになった。

そのとき、外壁の向こうで竜の咆哮が弾けた。

紅蓮竜が結界を破り、大通りへ降りた。竜騎将アシュレイダが槍を向けるが、竜は息を吸うだけで石畳を赤く焼いた。避難途中の子供たちが、広場の噴水に取り残されている。

「道がない!」

兵が叫ぶ。炎は面で来る。どれほど速く走っても、広場ごと呑まれる。飛竜で救おうとした騎兵も、上昇した途端に熱風で翼を折られた。噴水の水はすでに沸き、子供たちは互いの頭へ濡れた外套をかぶせていた。

アシュレイダは槍を支えに立ち上がったが、左脚の鎧が溶けている。次の炎まで、竜が息を吸う三呼吸しかなかった。

ノアドは最初の石畳へ手を置いた。

――一秒後、融解。

隣の石へ。

――一秒後、変化なし。

彼は走りながら、足元を次々に鑑定した。未来に溶ける石を避け、残る石だけを踏む。炎が吐かれる前に、安全な細い筋が広場へ描かれていった。

「私の前を走れ!」

アシュレイダが続く。竜炎が襲い、左右の建物も路面も白く爆ぜた。それでもノアドの足跡だけは、燃え残る石の上を縫っていた。二人は噴水へ到達し、子供を抱えて戻った。

だが竜が二度目の息を吸う。今度は城門そのものを狙っている。

ノアドは逃げず、竜の喉元へ飛び込んだ。並ぶ鱗に触れ、表示を追う。

閉鎖。閉鎖。閉鎖。

一枚だけが、こう変わった。

――一秒後、開放。

呼吸のために浮く逆鱗だった。

「将軍、三歩右へ。私が手を上げた瞬間に投げてください」

ノアドの手が上がる。アシュレイダの槍が走り、わずかに開いた鱗の隙間から竜の喉を貫いた。紅蓮竜は炎を吐けぬまま崩れ落ちた。

煙の中、勇者ガレフが追放状を拾った。だがアシュレイダはそれを奪い、二つに裂く。

「一秒あれば、竜を殺せるのだな」

「僕には道が見えるだけです」

竜騎将は自分の隊章をノアドの肩へ留めた。

「ならば今日から、王国軍の一秒先を歩け」