七秒ごとの瞬き
監査役の坂月が、オンライン役員会の途中で画面から消えた。午後九時十一分、彼は自宅書斎で「裏帳簿を示す」と言い、机の下へ身をかがめた。鈍い音のあと映像は静止した。管理人が五分後に駆けつけると、坂月は机の陰で撲殺されていた。玄関は閉めるだけで施錠される型で、窓は内側から固定されている。
会議にいた容疑者は、情報担当の鳥羽井、財務部長の枝折、顧問弁護士の丹比。三人とも別々の場所から顔を映し続け、坂月に告発されれば地位を失う立場だった。誰も五分で坂月宅へ往復できない。
枝折は帳簿の数字を問題にし、丹比は告発文の表現が名誉毀損だと反論した。鳥羽井だけは通信品質の話を続け、「録画ではなく、確かに今の坂月さんです」と何度も念を押した。だが、その断言は三人の中で彼にしか必要のないものだった。会議の録画は高精細で、坂月の顔だけでなく、机上の小物まで十分に読み取れた。
私は録画を一度だけ見直した。解答に必要な手掛かりは三つしかない。
第一に、背後の壁時計は九時八分十四秒から二十一秒まで進むと、針が十四秒へ戻った。
第二に、マグカップの湯気も同じ七秒ごとに、左へ折れる輪をまったく同じ形で作った。
第三に、坂月のパソコンへ仮想カメラを導入できる管理者権限を持ち、前夜に接続試験をしたのは鳥羽井だけだった。
枝折は「では、九時十一分に見たものは」と呟いた。録画の坂月は質問へ短く答えていたが、どれも「その件は資料で説明する」という使い回せる返事だった。
私は鳥羽井を指した。画面にいた坂月は、生中継ではなく七秒単位に編集した録画だ。鳥羽井は試験を口実に映像を撮り、会議前に坂月を殺して退出した。玄関は閉めれば自動で施錠される。あとは仮想カメラで録画を流し、音声だけ会議へ混ぜればよい。時計と湯気の反復が録画を暴き、管理者権限が実行者を一人に絞る。机の下へ消える結末まで作っておけば、全員は九時十一分の殺人を見たと思い込む。 画面が現在を映すという思い込みそのものが、最初に仕組まれた密室の鍵だった。