三人とも眠っている
火曜日の二十一時四十七分、透子は高校時代のグループチャットに、コンビニの袋から出したばかりのアイスの写真を送った。
〈これ、購買にあったぶどう味に似てない?〉
送信した瞬間は、ちゃんと面白いと思った。けれど、冷蔵庫に作り置きの麦茶を戻し、スーツのジャケットをハンガーに掛けても、吹き出しの下には何もつかなかった。
既読ゼロ。
グループ名は「四時限目の窓側」。卒業して六年になるのに、アイコンは制服の袖が四本写ったままだ。
テーブルには、スーパーで買った焼売がある。二割引のシールが貼られたパックは、帰宅してから三十分放置したせいで、透明な蓋の内側の湯気をすっかり失っていた。長いレシートには、焼売、豆乳、歯磨き粉、アイス。生活とご褒美が同じ幅で印字されている。合計欄だけが、妙に太い文字だった。
今日は会議で、説明の途中に二度も言葉を取られた。帰りの電車では、誰かに「分かる」と言ってほしかった。でも仕事の話をするほどではなくて、だからぶどう味にした。
透子はアイスの蓋を開け、ひと口食べた。思っていた味とは違った。もっと酸っぱく、舌に残る香料も強い。
〈全然似てなかった〉
続けて送ろうとして、指を止める。既読がつかないことへの言い訳みたいだった。
洗面所から、洗濯機の終了音が三回鳴った。干すには遅い。明日の朝でも、たぶん困らない。透子は焼売を温めず、そのまま一つ口に入れた。冷たい皮は少し硬かったが、からしを多めにつければ悪くなかった。
友人たちは子どもを寝かせているかもしれないし、残業中かもしれない。ただスマホを裏返しているだけかもしれない。理由を一つに決める必要はないのだと思うと、部屋の静けさが少し広くなった。
透子は送った写真を消さなかった。アイスも洗濯物も、今夜の自分も、きれいに回収しなくていい。
天井の白い照明を消し、流し台の小さな灯りだけにする。既読ゼロの画面を伏せ、二個目の焼売にからしをつけた。
三人とも眠っていることにして、今日はこれでよかった。