三十七秒の死角

宝石店には、毎晩二時十三分から三十七秒だけ、誰も映らない時間がある。

そう説明した警備主任は、停止した画面の前で指を組んだ。盗まれたのは展示用の青い指輪で、閉店後は内金庫に移されていた。鍵を持つのは店長と主任だけ。扉にも金庫にも傷はない。

映像では二時十二分五十八秒、清掃員が赤いワゴンを押して廊下へ入る。二時十三分、画面が一度だけ震えた。再び動いたときは二時十三分三十七秒。清掃員は金庫前の死角を抜け、空の廊下へ消えた。

「この間に取ったのでしょう」

主任は言った。だが、ワゴンの向こうで光る店内広告には「明日は棚卸し」と出ていた。棚卸しは盗難の前日に終わっている。主任は、表示の更新を忘れたのだと笑った。

もう一つ、ガラス扉には細い雨筋が残っていた。盗難の夜は晴れていたはずだ。主任は、閉店後に清掃液を吹きつけた跡だと説明した。

清掃員は、死角の三十七秒では金庫を開けられないと訴えた。主任は予備鍵を複製したのだろうと言い、店長は黙ったままだった。

電子錠の記録には二時十三分十二秒、正規鍵の認証が一度だけ残っていた。主任は、清掃員が店長の鍵から認証部品まで複製したのだと言い張った。だが店長の鍵はその夜、主任が管理する耐火箱に預けられていた。主任は「箱の暗証番号も盗み見られた」と、まだ見つかっていない手口まで先回りして説明した。

私は映像を巻き戻し、今度は画面の隅ではなく、ファイルの作成時刻を見た。録画サーバーには欠落がない。三十七秒止まっていたのは、主任が提出した「監視室用の再生ファイル」だけだった。

店内広告の配信履歴と、気象台の記録を重ねる。雨が降り、「明日は棚卸し」と表示された夜は一日前しかない。

私は主任に、ライブ画面へ切り替えるよう頼んだ。彼は動かなかった。代わりに店長が操作すると、現在の金庫前が映った。扉は開き、主任の机にしかない封蝋が床へ落ちていた。

あの清掃員が通ったのは、盗難の夜ではない。前夜だった。主任が見せた死角は三十七秒ではなく、昨日の映像で覆われた一晩だったのだ。

宝石店には、毎晩二時十三分から三十七秒だけ、誰も映らない時間がある――そう信じさせれば、盗難の夜の自分は、最初から画面に存在しない。