三枚の勧誘状と焼けた地図

地図師ネリアの失敗は、王都中に知られていた。

討伐隊の帰還路を描いた羊皮紙を、出発前夜の火事で焼いたのだ。予備図はなく、隊は三日遅れた。死者はいなかった。それでも元の仲間は「次は命を焼く」と言い、彼女の机ごと宿舎の外へ出した。

一月後、ネリアは冒険者組合の合同会議に呼ばれた。罰金の話だと思っていた机の上に、三枚の勧誘状が並んでいた。

北境騎士団の隊長ダルガンは、無言で佩剣を外し、ネリアの前へ置いた。

「道を決める者に、俺の命を預ける」

蒼天魔術院の研究官フィセラは、自分の隣の椅子から書類をどけた。

「地形の癖を読める助手が要るわ。席は今日から空けてある」

交易隊を率いる青年ザイムは、窓の外を指した。石畳には幌馬車が一台、雨の中で止まっている。

「返事が夜になっても待つ。帰る足がないのは困るだろ」

三人は互いを睨んだ。誰がネリアを迎えるかで、会議室の空気が剣呑になる。

ネリアには、その争いさえ信じられなかった。以前の隊では、彼女の椅子を片づける相談だけが、本人のいないところで進んでいたのだ。

そのとき、給仕が躓いた。紅茶が机へ広がり、三枚の勧誘状と、ネリアが持参した試作地図を濡らした。

ネリアの指が凍った。焦げた羊皮紙、冷たい廊下、閉じられた扉が一度に蘇る。

「すみません。やっぱり、私を雇う話は――」

椅子を引く音がした。

また捨てられる。そう思って顔を上げると、立った三人は帰るためではなかった。

ダルガンは外套で地図の水を吸い、フィセラは乾燥魔法を紙の端だけに慎重に当て、ザイムは給仕へ新しい羊皮紙を頼んでいた。

「事故と判断を混ぜるな」とダルガン。

「失敗した地図師なら、予備の必要を誰より知っているでしょう」とフィセラ。

「それに三枚とも駄目になったなら、三枚とも書き直せばいい」とザイムが笑った。

誰か一人を今すぐ選べ、と迫る者はいなかった。ダルガンの剣は机に残り、フィセラの隣席は空いたまま、窓の外の馬車には灯がともった。

ネリアは新しい羊皮紙を広げた。三人がそれぞれの印章を紙の隅へ置く。

まだ何も描かれていない地図の上に、帰れる場所だけが三つ、先に記されていた。