三社目の夕焼け
映像研究会の部室で、編集画面だけが夕焼けを止めていた。
卒業制作のラストカット。三人が河川敷を歩き、別々の方向へフレームアウトする。撮影したときは演出だった。いま見ると、予告にしか見えない。
「三社目、受かった」
倉橋岳人が言った。東京の広告会社。面接では、この作品を「企画から完成まで主導した」と説明したらしい。
真壁莉穂がマウスから手を離す。
「主導したの、三人でしょ」
「履歴書に三人分は書けない」
「じゃあエンドロールも一人にする?」
宮坂冬樹は、言い争いを止めずにタイムラインを戻した。音声の波形に、風のノイズが並んでいる。
「莉穂は市役所だっけ」
「地元の文化資料室。古いフィルムを整理する。給料は岳人の半分くらい」
「冬樹は」
「内定はない。結婚式の撮影を手伝いながら、来年、映像の大学院を受ける」
岳人が笑いかけ、途中でやめた。
「まだ続けるんだ」
「続けるって言葉、就活だと負け惜しみに聞こえるよな」
部室の壁には、去年までの上映会ポスターが重なっていた。三人で徹夜した夜も、機材費を割った日も、面接では一人称に直さなければならなかった。
莉穂はエンドロールを開き、三人の名前を同じ大きさにそろえた。
「これだけは、会社に提出しない版にしよう」
誰にも評価されない版だけが、三人にとって本物になる気がした。
「会社に出したのも同じだよ」と岳人は言う。
「順番が違った」
一番上にあった岳人の名を、莉穂は五十音順の二番目へ移した。岳人は何も言わなかった。
書き出しが始まる。残り時間は十二分。冬樹は大学院の願書を鞄へ入れ、莉穂は市役所から届いた封筒を折らずに抱えた。岳人だけが、新幹線の時刻を確認していた。
完成音が鳴ったとき、三人は同時に立った。それでも出口では、岳人が右へ、莉穂が左へ、冬樹が忘れ物を探すふりをして部室へ戻った。
編集卓の前には、監督用の椅子が一脚残った。背もたれに貼られた三人の名字は、端から少しずつ剥がれ始めていた。