両方を押した男

藤代燈真は、右手で赤、左手で青のボタンを同時に押した。

「錯乱したか」

向かいの鷲尾陣が笑う。首輪の起爆灯が、残り五秒を赤く刻んでいた。

円卓には四人。燈真、鷲尾、無表情な羽佐間ニナ、震えを隠せない紀堂孝。壁に映るルールは一行だけだった。

《制限時間内に赤か青のボタンを押せ。押した人数の多い色に触れていた者だけ生存する》

鷲尾は最初から青を宣言した。「俺に逆らうやつは赤へ行け。二対二なら全員爆発だそうだ」

それはルールにない脅しだったが、紀堂は青へ手を置いた。ニナは鷲尾を嫌い、赤を選んだ。

二対一。燈真がどちらへ入るかで、生死が決まる。

四人の手首は椅子に固定されていたが、左右の鎖にはわずかな遊びがあった。赤と青の感圧板は掌一枚分しか離れていない。燈真は説明中、何度も両腕の届く範囲を測っていた。片方を押すと他方がロックされる仕組みもない。

「お前は赤だろう?」鷲尾が言う。「ニナを見捨てられない顔だ」

「そう思うなら青へ変えればいい」

「安い誘導だ」

残り一秒。燈真は笑って、左右へ腕を伸ばした。

電子音。卓上に数字が浮かぶ。

赤――二名。

青――三名。

多数色、青。

ニナの首輪だけが鋭く鳴った。彼女は目を閉じる直前、燈真の両手を見て、悔しそうに笑った。

鷲尾が立ち上がる。「待て。こいつは二票入れた! 一人一票のはずだ!」

天井の音声は淡々と答えた。

《藤代燈真は赤に触れ、青にも触れています。多数色は青。生存条件を満たします》

「『赤か青』は、日常会話ならどちらか一つに聞こえる」

燈真は解除された首輪を卓上に置いた。

「でも『どちらか一つだけ』とも、『一人一票』とも書いていない。数えたのは票じゃなく、色に触れた人数だ。三人がどう割れても、俺は必ず多い方に含まれる」

鷲尾の笑みが消えた。彼は三人の心だけを読み、燈真の二本の腕を数え忘れていた。

燈真は開いた扉へ向かい、振り返らずに言った。

「多数決で最初に疑うべきは、誰が多数かじゃない。何を一人と数えているかだ」