中間地点の十番ホーム
二十一時十二分。篠塚維吹は宇都宮駅の十番ホームで、東京行きの発車を待っていた。春木帆波が乗る仙台行きは、向かいの九番から二十一時二十二分に出る。遠距離になって一年、二人は月に一度だけ中間地点で会った。
帆波は駅ビルの喫茶店のカードを差し出した。十個目のスタンプまで、あと一つ。初めて会った日は会計を分け、二度目から交互に払った。どちらの財布に入れるかで揉め、結局、会うたび持ち主を替えてきた。裏には、会えなかった月の分だけ日付が鉛筆で並ぶ。大雪、休日出勤、発熱。スタンプより空白の理由のほうが多くなっていた。帆波は欠けた月を丸で囲み、『これは会わなかった記念日』と冗談にしていた。喫茶店ではいつも窓際に座り、互いの帰る列車が先に見えたほうが会計を払った。最後の十分だけは、どちらも時計を見ない決まりだった。
「これ、維吹が持ってて」
「次は帆波の番だろ」
「もう真ん中では会えないから」
維吹はカードを受け取った。紙の角が、彼女の指の形に丸く潰れている。
先月、東京で同居しようと持ちかけた。帆波は電話の向こうで「今の仕事は捨てられない」と言った。それ以来、維吹は転職サイトを閉じ、二人用に保存していた物件も消した。今夜は答え合わせだけのつもりだった。
「じゃあ、これで終わりか」
「そう聞こえた?」
「ほかに聞きようがない」
帆波が鞄から封筒を出しかけたとき、九番ホームに列車が滑り込んだ。人波が二人の間を塞ぐ。
「待って。私――」
発車ベルに続きが消えた。維吹は、追えばまた自分だけが距離を埋める気がして、東京行きへ乗った。扉が閉じた直後、携帯に人材会社から転送メールが届く。送信者は帆波だった。
〈東京本社採用決定。四月一日付〉
続けて短いメッセージが来た。
〈真ん中じゃなくて、次は同じ街で会いたかった〉
窓の向こうで、帆波は封筒を胸に立っていた。仙台行きも動き出し、二本の列車は同時に反対へ離れていく。
次の停車駅は小山。維吹は喫茶店のカードを裏返した。余白に、帆波の新しい東京の住所が書いてある。
彼は東京までの切符をポケットへ戻し、小山で降りるために席を立った。