主語のない王命

「省かれた主語が分かるだけ? 無能だな」

王宮文官試験で、ユフラは灰色札を渡された。

【能力:《主語拾い》――聞いた一文で省略された主語を、一日に一度だけ正確に理解する】

剣も魔法も強くならない。ユフラは命令書を運ぶ下働きへ回された。

三日後、王の戴冠宴で近衛兵が一斉に剣を抜いた。

宰相が掲げた勅書には、王の印とともに「反逆者を捕らえ、抵抗すれば斬れ」とある。近衛隊長は若王へ刃を向けた。宰相は、反逆者とは王自身だと宣言する。

「陛下は先王を毒殺した。勅書は先王の遺命だ」

印は本物だった。紙も筆跡も先王のもの。若王を守ろうとした将軍セルガンさえ、王命へ逆らえば反逆者になる。

ユフラは勅書の読み上げを聞いていた。

文官なら、主語は「近衛兵」だと補う。だが能力が拾った主語は違った。

「もう一度、最初から読んでください」

宰相が苛立ちながら読む。

ユフラは《主語拾い》を使った。

――反逆者を捕らえるのは、勅書そのもの。

先王は死の直前、王印を盗む者を想定していた。勅書には肉眼で見えない古い命令術が仕込まれ、偽りの目的で読み上げた者を「反逆者」と定める。省かれた主語は近衛でも王でもなく、紙に宿る王命だった。

次の瞬間、勅書から金の鎖が伸びた。

鎖は若王を避け、読み上げた宰相の両腕へ巻きつく。宰相が命令を止めようとしても遅い。紙自身が彼を捕らえ、抵抗した剣を砕いた。

近衛兵たちは戸惑い、やがて剣を下ろす。若王の足元へ落ちた王冠を、最年少の兵が震える手で拾い直した。つい先ほどまで処刑場だった宴の間へ、初めて安堵の息が広がる。宴の楽師たちも止めていた指を動かし、静かな王家の曲を奏で始めた。宰相の懐からは先王の印箱と毒薬が見つかった。

試験官が「古い術式を知っていただけだ」と呟いた。

セルガンは勅書を拾い、その男の灰色札の上へ置く。

「我らは命令の中身ばかり見て、誰が行うのかを疑わなかった」

将軍はユフラへ王印の副鍵を渡した。

「今日から王命を読む席には、剣より先におまえを置く」