二つ並んだ製造番号

医薬品工場の出荷判定室で、安積瑛莉は二万四千箱を止めた。

その日は、品質管理の溝口祐未が産休に入る前の最終勤務だった。午後の引き継ぎが終われば、祐未が担当してきた包装ラインは瑛莉の管轄になる。机には黄色い付箋だらけの手順書と、出荷承認を待つ二種類の胃薬が並んでいた。

「例外だけ黄色。迷ったら私の個人ノートを見て」

祐未が笑って差し出した厚い手帳を、瑛莉は受け取らなかった。見本箱の側面に印字された製造番号が、記録票と逆だったからだ。薬名も使用期限も同じ。違うのは、片方だけ包装機の調整後に作られたという履歴だった。

主任は「箱の取り違えだろう。中身は同じだ」と承認欄へペンを置いた。だが瑛莉は、表計算の並べ替え履歴を開いた。結合された薬品コードだけ動かず、製造番号と検査結果の行が入れ替わっている。問題は箱ではなく、判定表そのものだった。

瑛莉は出荷口へ電話し、積み込みを止めた。包装担当には箱のバーコードを一列ずつ読み直してもらい、新人には「急いで照合しなくていい。声に出して、番号の末尾から読もう」と伝えた。二十分後、調整前の一ロットにだけ、接着強度の再検査が必要だと分かった。

瑛莉は入社二年目で、まだ祐未ほど包装機の音を聞き分けられない。それでも、見落としを経験の差で片づければ、次に座る人も同じ手帳を必要とする。出荷を待つトラックの低い振動を感じながら、彼女は調整前後の箱を別の台車へ分け、再検査の時刻まで記録した。

祐未は自分の手帳を閉じた。

「そこ、私が毎回目で合わせてた。書かなきゃと思ってたのに」

瑛莉は責めず、承認表へバーコードの自動照合欄を追加した。主任は安堵した顔で言った。

「明日から祐未さんの代わり、頼むよ」

瑛莉は、机の端に置かれていた代理責任者の書類を引き寄せた。肩書は代理、権限欄は空白、手当欄には斜線が引かれている。

彼女は赤字で〈出荷停止権限〉〈職務手当〉を書き込み、個人ノートに依存しない手順書を添付した。

件名を〈引き継ぎ条件付き受諾〉に変え、送信を押した。