二人分の軍手
粗大ごみの回収券は、ダイニングテーブルの脚に貼られていた。
帰宅した千紗は、買い物袋を床へ置いた。四人掛けのテーブルは、半年前まで円香が婚約者と暮らす部屋に置く予定だったものだ。別れたあとも処分できず、六畳の居間を占領していた。
「明日、出すの?」
流しで陶芸用のへらを洗っていた円香は、こちらを見なかった。
「そのつもり」
千紗は物を残さない。期限の切れた調味料も、着ない服も、迷う前に捨てる。円香は欠けた皿にも、映画の半券にも、出会った日の天気まで貼りつけておく。
だから、回収券を見て安心した自分を、少し恥じた。
翌朝、雨だった。回収場所は建物の裏で、エレベーターにはテーブルが入らない。円香は片側を持ち上げ、すぐに落とした。
「一人でやるって言ったのに」
「言われてない」
千紗は玄関収納から軍手を二組出した。片方を円香の胸元へ投げる。円香は受け損ね、黄色い滑り止めの粒が床を跳ねた。
廊下の角で天板が壁にぶつかり、階段の途中で二人とも笑った。泣き笑いではない。ただ、重すぎて、息を合わせないと一段も下りられなかった。
「せーの、で右」
「私の右?」
「テーブルの右」
「テーブルに右はないでしょ」
言い合いながら、三階分を運んだ。回収場所へ着くころには、軍手が雨を吸っていた。
管理人が傘の下から尋ねた。
「壊れたんですか」
円香は濡れた天板を一度なでた。
「いいえ。まだ使えます。でも、うちには大きすぎるので」
千紗は何も足さず、反対側の脚を地面へ置いた。
部屋へ戻ると、居間の中央が四角く明るかった。円香はそこへ座り、千紗も向かいに座った。価値のある物を手放す気持ちは、千紗にはたぶん最後までわからない。捨てれば済むと思える軽さを、円香も好きにはならないだろう。
円香は、なくなれば寂しくなると思っていた場所の広さに驚いた。千紗は、広くなれば嬉しいと思っていたのに、床に残った四つのへこみをすぐ拭く気にはなれなかった。
千紗は台所から折り畳みの小さな卓を持ってきた。円香が片方の脚を開き、千紗がもう片方を開いた。
乾いた金具の音が、空いた部屋の真ん中で鳴った。