二人分の鍵
真壁澄香が玄関を開けると、都倉礼司は見知らぬ女と並んでソファに座っていた。廊下には大きなスーツケースが二つ。礼司は謝る代わりに、テーブルへ合鍵を置いた。
「話は早い。俺はこの人と暮らす。澄香は今週中に出ていってくれ」
女は気まずそうに目を伏せたが、礼司だけは部屋の持ち主の顔をしていた。
澄香はコートも脱がず、キッチンから透明なファイルを持ってきた。
「確認だけど、この部屋が誰のものか知ってる?」
「二人で住んで三年だ。家賃も光熱費も俺が半分出してる。細かいことを言うなよ」
「家賃はないよ。叔母から相続した部屋だから。あなたが払っていたのは光熱費の一部だけ」
礼司の笑みが止まった。澄香は登記事項証明書を一枚抜き、所有者欄を指で叩いた。そこには真壁澄香の名しかない。
「同棲してたんだから、俺にも住む権利くらい――」
礼司は、壁から外された澄香の写真を指した。代わりに女の好きな色のカーテン見本が置かれている。
「もう模様替えの相談も済んでる。今さら困らせるな」
「困る順番を、あなたが決めるの?」
澄香は、同居解消後の私物返還について管理会社と交わした確認書も見せた。礼司が昨夜、内容を読まずに電子承認したものだった。
呼び鈴が鳴った。
制服姿の管理会社員と、作業着の男が立っていた。後ろには台車を押す引っ越し業者もいる。
「真壁様、電子錠の登録変更に参りました。貸倉庫への搬送品はこちらでよろしいでしょうか」
澄香は廊下のスーツケースではなく、礼司の部屋を示した。
「家具は私が買ったものなので、衣類と私物だけお願いします。倉庫代は一か月分だけ払ってあります」
礼司は立ち上がり、合鍵をつかんだ。
「勝手なことをするな。俺はここに住んでるんだぞ」
「だから昨日、退去の通知を渡した。受領の返信もあなたから来てる。『面倒だから好きにしろ』って」
管理会社員が端末を操作した。玄関の電子錠が短く鳴り、礼司のスマートキー登録が画面から消えた。
礼司は確認するように鍵をかざした。
ランプは赤く点滅した。