二人目の新郎
結婚式場「白鷺館」で、御厨朔也は控室係に呼び止められた。
「御厨朔也さまですね」
「はい」
「花嫁さまから伝言です。式の前に、二人で抜け出したい、と」
朔也の喉が鳴った。久世澄花とは七年付き合った。まさか当日に逃げたいと言われるとは思わなかったが、「二人で」なら破談ではない。むしろ駆け落ちである。
「どこへ?」
「裏口です。車は用意できないので、走ってほしいそうです」
「ウェディングドレスで?」
「花嫁さまは覚悟を決めています」
「分かりました。両家には僕から謝ります」
「そこまで大事に?」
「大事でしょう!」
裏口には、赤いブーケを持った花嫁がいた。ベールで顔は見えない。
「来てくれたのね」
「君が望むなら、どこへでも」
「近所ですけど」
「近所から人生を始めよう」
「たこ焼き屋から?」
「え?」
「余興のダンスなんて無理。二人でたこ焼きを食べて、時間をつぶそうって言ったでしょ」
「澄花、そんなにたこ焼きが」
「澄花?」
花嫁がベールを上げた。知らない女性だった。
「私、滝ノ瀬莉佳ですけど」
「僕の花嫁じゃない」
「失礼ね。あなたこそ朔也さんじゃないの?」
「御厨朔也です」
「合ってるじゃない」
「合ってるのが怖い!」
そこへ、同じ型の礼服を着た男が駆けてきた。
「莉佳! 先に行くなよ」
「朔也さんが二人いる!」
「僕も御厨朔也です」
さらに廊下の向こうから、澄花が裾を持ち上げて走ってきた。
「朔也、どこへ行くの! 写真撮影が始まるよ!」
「逃げたいんじゃなかったの?」
「誰が?」
控室係が青い顔で名簿を抱えて現れた。同時刻、同じ階、同じ式場に、同姓同名の新郎が二人。しかも伝言欄には名字しか書かれていなかった。
「大変申し訳ございません。御厨朔也さまは、本日二名いらっしゃいます」
莉佳が赤いブーケを振った。
「じゃあ、たこ焼きは四人で行く?」
「式のあとなら」と澄花。
式場ではその日のうちに、名札へ花嫁の名も添える新規則ができた。朔也たちは顔を見合わせた。
新郎は二人、花嫁は間違えなかった。