二十一番の色見本

限定リップの先行販売が始まる十分前、柴宮梗香は二十一番のテスターを手の甲へ引いた。

見本帳では青みのあるローズなのに、肌の上では橙色に近い。隣の十二番を試すと、今度はローズが現れた。売り場の後輩が、昨夜届いた商品へ番号シールを貼ったばかりだった。

「箱の並びどおりに貼りました。メーカーの納品書も、この順番です」

ガラス台の向こうには、開店を待つ客が見える。今日の目玉は、パーソナルカラー診断と限定色のセット販売だ。予約客の中には、結婚式用の一本を選ぶ人もいる。店長は二本を見比べ、「色味の誤差でしょ。販売しながらメーカーへ確認して」と言った。

梗香はキャップの底に刻まれた小さな製造記号を読んだ。十二番はR、二十一番はO。見本帳の記号とは逆で、外箱だけが入れ替わっている。誤差ではない。買った人が家で開けるまで分からない種類の間違いだった。

「開始を十五分遅らせます」

梗香は全数を台から下ろし、外箱、容器底、見本帳の三点を照合した。後輩には貼り直しを任せず、片方を読み上げ、もう片方が確認する形に変えた。

「私が全部間違えました」

「一人で百本を正しく貼れる前提が間違い。今、見つけたところから直そう」

予約客には、色番号の確認に時間がかかっているとだけ伝えた。やがてメーカーから、梱包工程で二色の外箱が逆になったと連絡が来た。ほかの店舗はまだ気づいていなかった。

販売開始は十八分遅れた。待っていた客の中には不満そうに腕時計を見る人もいたが、梗香は一人ずつ、番号を直した理由まで説明した。最初の客が二十一番を唇にのせ、「これを探していた」と笑ったとき、後輩の肩からようやく力が抜けた。返品や交換の件数ではなく、買う前に止めた十八分が、今日の売り場を守ったのだと梗香は思った。

閉店後、店長は梗香へ、売上管理を中心とする副店長候補の申請書を差し出した。梗香はその横に、商品研修担当の募集要項を置いた。

「数字を追う席より、間違いを見つけられる人を増やす席へ行きます」

梗香は研修担当への応募ボタンを押した。