二度数える人

早蕨紬は、港湾倉庫でいちばん遅い検品員だった。

正確には、誰より早く一度目を終え、そのあと必ずもう一度数えるので、遅く見えた。

「同じ箱を二回見るなんて、仕事ができない証拠だ」

志岐課長は朝礼のたびに笑った。紬が二度目の確認で封印シールの番号まで手帳に写すと、「紙に逃げるな」とまで言った。

紬が二度数えるようになったのは、前の職場で一桁違う部品を出荷し、取引先の生産を止めた経験があるからだ。速さを誇るより、違いが生まれた時刻を残す。その方法だけは変えなかった。

月末、北星流通の監査が入った。

輸出予定の医療機器が、帳簿より十二箱少ない。代わりに、廃棄予定だった旧型品が同じ数だけ積まれていた。

志岐はすぐ紬を指した。

「こいつの棚です。遅いうえに数もまともに数えられない」

監査役の百目鬼は、紬の顔ではなく棚を見た。

紬は黙って手帳を開いた。一度目の欄には新型品の箱番号、二度目の欄には旧型品の箱番号。記録時刻の間は十九分だった。

「その十九分に何が?」

「休憩で全員が持ち場を離れました。戻ったら封印の向きが逆でした」

志岐が鼻で笑う。

「手書きなんか証拠になるか」

「なります」

百目鬼は携帯端末を棚の読み取り機につないだ。

紬は、二度目の確認を始める前に、念のため全箱を携帯スキャナでも読んでいた。端末には一度目と二度目、両方の一覧が残っていた。

倉庫の大型画面に、箱番号の差分が赤く並ぶ。

その横へ、封印解除に使われた社員証の履歴が表示された。

十九分間に扉を開けた者は一人だけだった。

志岐課長。

さらに監視映像には、志岐が新型品を別車両へ積ませる姿が映っていた。映像の保存区間を消したつもりだったらしいが、紬の再読取時刻から絞り込んだ予備カメラに残っていた。

「これは、入力ミスで」

志岐が画面に手を伸ばす。百目鬼はその手より先に端末を閉じた。

「早蕨さん。なぜ最初から報告しなかったのですか」

「二度数えて、間違いだと確定してから話す決まりにしています」

百目鬼は初めて笑った。そして倉庫長へ、監査報告書ではなく新しい担当者登録画面を向けた。

棚卸責任者の欄には、すでに早蕨紬の名が入っていた。