二枚の卒業写真
母は食卓に、姉妹の卒業写真を並べていた。
晴乃のは紺色のスーツで、苑子のは白い袴。額縁まで、なぜか一つだった。
「苑子は華があるでしょう。晴乃は昔から堅実で」
煮物を取り分けながら、母はいつもの説明をした。親戚がいるわけでもない。今夜は三人だけなのに、母はまるで初対面の客に娘たちを紹介するように話す。
「お姉ちゃんは公務員、妹はデザイナー。うまく分かれたものね」
晴乃は箸を置きかけ、やめた。昔はそこで笑った。堅実と言われれば、失敗しない人を演じればよかった。苑子が髪を青く染めたときも、母に頼まれて説得役をした。
向かいの苑子は、里芋を半分に割っていた。
「これ、まだ飾ってたんだ」
「家族の記念だもの」
「私、袴よりスーツの写真のほうが好きだったよ」
苑子が言った。就職活動のために撮った、耳を出した証明写真のことだろう。
母は聞かなかったことにして、晴乃の皿へ煮物を足した。
「お姉ちゃんはこれ好きよね」
晴乃は皿を手で覆った。
「晴乃って呼んで」
母の菜箸が止まった。
「何を急に。苑子の前ではお姉ちゃんでしょ」
「苑子には姉だけど、お母さんの係じゃないから」
言葉にすると、思ったより短かった。苑子が顔を上げる。助けを求める目ではなく、続きを待つ目だった。
晴乃は額縁を手元へ引いた。裏の留め具を外し、二枚の写真を抜く。
「これ、分けるね」
「家族なのに?」
「家族だから、同じ額に入れなくていい」
苑子は白い袴の写真を受け取り、少し考えてからバッグに入れた。晴乃は自分の写真を伏せて脇に置いた。
母は味噌汁をすすり、「最近の子は難しいわね」と言った。
晴乃は反論しなかった。最近の子ではないし、難しい話でもない。
食事が終わると、苑子が「晴乃」と呼んだ。試すような声だった。
「駅まで一緒に帰る?」
「うん」
母が「お姉ちゃん、食器を」と言いかける。
晴乃は自分の茶碗だけを流しへ運び、苑子の隣に立った。
「ごちそうさま、母さん」
お母さんではなく、母さん。姉でも、堅実なほうでもない。
晴乃は伏せた写真を封筒に入れ、二人で玄関を出た。