会議室の十一脚目

人員を減らす可能性のある会議では、出席者より一脚多く椅子を置く。

余分な椅子は出口に最も近い場所へ置き、座面に決裁案を伏せて載せる。誰も座ってはいけない。採決が終わると椅子は自分で動き、職場から居場所を失う者の背後で止まる。止まるまでは退室禁止。空席の後ろで止まった場合、その決裁案は無効になる。

十人が集まった会議室には、十一脚目があった。

硯川は開発チームの責任者として、六人から二人を外す案を説明した。納期遅延、追加費用、顧客からの減額要求。数字を読む声は自分でも驚くほど平らだった。

役員は若手二人の名前を挙げた。経験が浅く、代わりが利くという。だが遅延の原因は、硯川が顧客の無理な仕様変更を断れなかったことだった。若手は彼の決定どおりに夜を使っただけだ。

若手の一人は昨夜、硯川の代わりに顧客へ謝った。もう一人は、恋人の誕生日に会議室から試験環境を直した。二人の机には私物がほとんどなく、いつ切られても運べるようになっていた。それを見て見ぬふりにしたのも硯川だった。

十一脚目の座面から、紙の角がのぞいていた。硯川は触れられない決裁案を見ながら、昨夜も帰らなかった自分の部屋を思った。食卓はなく、椅子も一脚しかない。恋人が出ていったとき、「仕事には、あなたの代わりがいるのに」と言われた。その言葉だけが、まだ代わらず残っている。

硯川の机には、椅子の背へ掛けたままの替えシャツが三枚あった。帰宅しない日を想定して増やした物だ。チームの誰かがそれを見て笑うたび、彼は責任者らしく笑い返した。

「修正案があります」

硯川は、自分の管理職枠を廃止し、設計判断を三人へ分散する案を画面に出した。削減額は役員案より大きい。引き継ぎも今夜中に終えられる。

誰も反対しなかった。採決ランプが十個、緑に変わった。

十一脚目がきしみ、ゆっくり回った。若手の背後を通り、役員の椅子にも寄らず、硯川の真後ろで止まった。

会議が終わると、皆は次の予定を確認しながら出ていった。硯川も自席へ戻った。モニターと書類はすでに運ばれ、机の前には会議室の十一脚目だけが置かれていた。

座面には、朝飲み残した紙コップが載っていた。コーヒーは冷えていたが、一つだけ浮いた気泡が、まだ破れずに揺れていた。