余った三食
学生起業支援室の冷蔵庫には、売れ残り弁当が三つあった。
皆川湊斗が作ったアプリ〈タベツナ〉は、閉店前の飲食店と学生を結び、廃棄予定の料理を安く売る仕組みだった。登録店舗は一時四十軒。今朝、最後の一軒から契約終了のメールが届いた。
「食中毒はうちの弁当じゃなかったのに」
折笠衣良が、保冷バッグを畳みながら言う。
「噂の出たアプリを残す理由も、店にはないよ」
塩見智哉はホワイトボードの月商を消した。最高月でも、三人の時給を出せない数字だった。
湊斗は会議机の中央へ解散届を置いた。
「借金は俺が多めに持つ。代表だったから」
「代表って、成功したときだけ偉い役じゃないの?」と衣良。
「失敗したときだけ便利な役だよ」
三人は笑えなかった。壁には、去年の起業コンテストで掲げたポスターが残っている。〈廃棄を利益に変える〉。審査員は拍手し、写真では三人とも未来の経営者みたいに胸を張っていた。実際に変わったのは、店主が廃棄量を入力する手間と、夜道を走る衣良の睡眠時間だった。
弁当の消費期限は、あと二時間だった。
「衣良、パン屋に行くんだっけ」
「うん。アプリじゃなくて、売れ残らない量を手で覚える」
「智哉は?」
「地銀。融資する側になる。『若者の熱意』だけじゃ貸さない人になる」
二人が湊斗を見る。
「俺は大学院。食品流通を研究する」
「また食べ物?」
「今度は、助けたいって言う前に、誰が困るか数える」
衣良が弁当を一つ開けた。冷えた唐揚げを三等分しようとして、箸を止める。
「三つあるなら、一人一個でいいじゃん」
「それじゃ余る」
「明日の朝、食べれば?」
「明日はもう、この部屋に入れない」
三人は別々の弁当を選んだ。衣良は魚、智哉は生姜焼き、湊斗は一番売れ残りやすかった野菜だけの箱。最後まで、好みは一致しなかった。
食べ終えると、智哉が会社のグループチャットを閉じた。衣良も退出し、湊斗の画面に〈参加者一名〉と表示される。
冷蔵庫の下段には、配達員用の空の保冷バッグが一つ残った。持ち手だけが、誰かの帰りを待つように立っていた。