傷より先に腐った包帯
「傷を治すだけなら神官で足りる。戦えない聖女に分け前はない」
そう言ってセルフィナを追放した翌日、〈鋼牙の旅団〉は初級遺跡へ入った。
最初の敵は針鼠一匹だった。団長ブロガンの手の甲に、針が一本かすっただけ。神官は笑いながら傷を閉じ、荷袋から包帯を取り出して巻いた。
半刻後、ブロガンの指が黒くなった。
神官が治癒を重ねても、黒ずみは手首まで登る。傷口を閉じたせいで、針に付いていた腐敗菌まで肉の内側へ封じ込めていた。包帯をほどけば、布には昨夜の生肉の汁が乾いている。
「いつもと同じ包帯だぞ!」
違ったのは包帯ではない。セルフィナは野営のたび、布、刃物、仲間の指先へ《清浄の祈り》をかけていた。目立つ光も、強くなる感覚もない。だから皆、彼女が火のそばで手を組む時間を、働いているふりだと笑った。
一行は遺跡を出ることさえできず、腕を切り落とすか判断するため治療院へ担ぎ込まれた。入口の壁には、ちょうど新しい記録札が掛かっていた。
――前線施療所、術後発熱三十日連続ゼロ。衛生聖女セルフィナ監修。
神官たちは残った包帯を煮沸しようとしたが、火加減を誤って半分を焦がした。無事だった二人の小傷にも熱で縮んだ布を巻き、今度は血流を止めてしまう。初級遺跡の報酬は銀貨十二枚。治療費と救助隊の派遣料は、その二十倍になった。
受付の治療簿には、昨夜までゼロだった化膿患者が三人並んだ。旅団の仲間は、セルフィナが自分たちだけでなく共用の道具まで清めていたと、そこで初めて知った。
そのころセルフィナは、辺境の施療所で外科医セヴァクの助手たちへ、光らない奇跡の使い方を教えていた。
「傷を閉じる前に、傷へ触れるものを清める。これだけで救える命が増えます」
医師たちは誰一人笑わず、彼女の手順を羊皮紙へ書き留めた。そこへ伝令鳥が窓から飛び込み、ブロガンの血文字を落とす。
――今すぐ戻れ。報酬は倍にする。俺の腕を救え。
セルフィナは返書へ施療所の印を押した。
「旅団との治癒契約は、追放状に署名した時点で終了しています」