先頭番号はゼロ
限定スニーカー発売日の午前四時、星見沢玲久が店へ着くと、入口には折り畳み椅子が二十脚並んでいた。
人は一人もいない。
午前六時前、獅子戸玄馬が仲間を連れて現れ、椅子を指さした。
「ここ全部、俺らの場所。昨夜から取ってある」
玲久の後ろには、始発で来た客が静かに列を作っていた。列の参加者は、店の案内どおり午前六時の位置を時刻入り写真で共有しており、椅子だけが並んだ時間も全員の記録に残っていた。店員は、列形成は午前六時から、場所取りは無効だと告げる。玄馬は椅子を蹴り、店員の胸元へ顔を寄せた。
「SNSでこの店を潰すぞ。二十足まとめて買う上客を怒らせるのか」
開店時刻、店長が整理券端末を持って出てきた。今回の整理券は、その場にいる本人の顔とスマートフォンを照合し、一人一枚だけ発行する方式だった。昨夜からの監視映像も保存されている。
玄馬は仲間を前へ押し出したが、全員の端末に同じ決済カードと配送先が登録されていた。さらに、発売前から転売サイトへ二十足を出品していたアカウントも同じ番号につながっている。
「買った後のことは店に関係ないだろ」
店長は販売規約を開いた。
虚偽申告、代理購入、購入前出品が確認された場合、整理券と系列全店の会員資格を無効にできる。玄馬たちは前夜、その規約へ同意して応募していた。
警備員が椅子を片づける。玄馬が店員の腕をつかんだ瞬間、後ろの客が一斉にスマートフォンを上げた。誰か一人の動画ではない。列全体の時刻入り映像が、同じ行為を映していた。
店長は販売拒否と退店命令を告げ、警察へ連絡した。転売サイトも在庫を持たない出品として二十件を削除し、売上金口座を凍結した。
玲久の端末へ、最初の正規整理券が届く。
番号は一番ではなく、〈有効列・000〉。
シャッターが上がり、玄馬の二十脚が歩道の外へ運ばれた瞬間、誰も座っていなかった“先頭”はゼロ件として処理され、最後まで立って待った玲久が最初の客になった。