冷凍庫の赤いランプ
冷凍食品倉庫の午前便は、赤いランプが点くたびに一分遅れる。
鷲尾芹夏は、その一分を嫌っていた。派遣で入って三か月、遅れれば最初に削られるのは休憩時間だと知っている。班長の宮地緒里は逆で、機械が少しでも妙な音を立てれば止めた。目標数を守ることより、事故報告を書かない日のほうが大事だと言う。
「また止めたら、今日も残るよ」
「指が残るよりいい」
二人の会話はいつも冷えたままだった。
昼前、搬送ベルトの継ぎ目に段ボールの角が食い込んだ。芹夏は手袋の先で箱を押し戻そうとした。あと十秒で抜ける。そう思った瞬間、ベルトが短く跳ね、右袖を引いた。
緒里が操作盤へ走る。けれど非常停止ボタンの前には、崩れた箱が積もっていた。芹夏は左手を伸ばした。反対側の赤いボタンまで、指先が届かない。
「足で踏んで!」
「非常停止は押すものです」
こんなときまで細かい、と芹夏は思った。緒里は箱を蹴り崩し、芹夏は身体をひねった。二人の掌が、ベルトの両側にある赤いボタンをほとんど同時に押した。
機械が止まると、冷凍庫は耳が痛いほど静かになった。緒里は芹夏の袖を切り、腕に傷がないことだけ確かめた。大丈夫、とも、怖かったでしょう、とも言わない。
「停止時間、七分になる」
「八分。袖を替えるから」
芹夏は自分からそう言った。
復旧後、上司は原因欄に「作業者の不注意」と入力しようとした。緒里がキーボードを引き寄せるより先に、芹夏が「手順上、稼働中に除去できる配置だった」と打った。緒里は隣の欄へ、停止ボタン前の荷物の写真を貼った。
作業台へ戻ると、緒里は予備の上着を棚から出し、芹夏は濡れた手袋を乾燥機へ入れた。互いの仕事を奪わず、次の便に必要なものだけを交換した。再開時刻は二人で確認し、遅れた八分を休憩から引かないよう勤怠欄にも印を付けた。
帰り際、二人は破れた箱を一つずつ持った。芹夏はまだ、遅れを気にする。緒里も、目標数に興味がないままだ。それでも赤いランプの下では、同じ速度で歩いた。