切断を確認してください

 鋤柄志保子の家へ、県警を名乗る男から電話がかかってきた。

『あなたの口座が詐欺事件に使われています。犯人が通帳を取りに来る可能性があります』

 男は志保子の氏名だけでなく、利用している銀行と支店名まで知っていた。

「本当に警察の方?」

『疑うのは当然です。一度電話を切り、ご自分で一一〇番へかけ直してください。こちらからは切りませんので、受話器を置いて十秒待ってください』

 志保子は受話器を戻した。

 怖くて十秒も待てず、三つ数えただけで持ち上げた。ツー、という音がしたので、一一〇を押す。

『警察です。事件ですか、事故ですか』

 今度は女の声だった。

 事情を話すと、先ほどの男は本物の捜査員で、まもなく刑事が通帳を保護しに行くと言った。

『確認のため、金庫の場所と暗証番号をお願いします』

 志保子は少し迷ったが、警察なら安心だと思って答えた。

 二十分後、背広の男が来た。

 インターホン越しに警察手帳を開いたが、写真は小さくて見えない。

「固定電話をつないだままにしてください。指令室でも訪問を確認しています」

 志保子は男を居間へ通した。

 彼は通帳と印鑑を封筒へ入れ、家の中を見回した。

「ほかに現金は?」

「二階にはありません」

 言ってから、二階にあるとは誰にも伝えていないことに気づいた。

 そのとき、志保子の携帯電話が鳴った。娘の未琴だった。

『お母さん、さっきから家の電話がずっと話し中だけど、大丈夫?』

 志保子は居間の固定電話を見た。

 受話器は、最初の電話から一度もきちんと台座にはまっていなかった。男に言われ、横向きに置いたままだった。

「でも、一度切って、一一〇番に……」

『切れてないよ。古い電話は、相手が回線をつないだまま音を流せることがあるの。すぐ外へ――』

 背広の男が、志保子の肩越しに携帯電話を取り上げた。

「どなたですか」

 最初の電話と同じ声だった。

 固定電話の受話器から、女の声が聞こえた。

『警察です。事件ですか、事故ですか』

 続いて、二人の笑い声が重なった。

「切断を確認してくださいと、申し上げたでしょう」

 背広の男はそう言いながら、玄関の内鍵を掛けた。