初回十連と枯れ井戸

ノエルが辺境のルッカ村へ領主として押しつけられて三日目、井戸が枯れた。

王都から給水馬車を呼べば五日。村に残る水は、老人と子どもへ回しても二日分しかない。前任者は「税を倍にして隣領から買え」と書き残していたが、空の桶を抱えた村人たちに払える金などなかった。

そのとき、ノエルの視界の端で、転生以来ずっと閉じていた表示が明滅した。

《初心者限定・初回十連を実行できます》

祈っても水は増えない。なら、使えるものは使う。ノエルはその場で十連を一度だけ回した。

結果はすぐ並んだ。麻紐、欠けた皿、火打ち石、乾パンなどが九つ。最後に、親指ほどの青黒い石が一個。

《名称不明の鉱石/説明:水があった場所へ返してください》

「それだけ?」

誰かの落胆が聞こえた。ノエルも同じ気持ちだったが、説明文だけは妙に具体的だ。彼は縄を腰に結び、枯れ井戸へ降りた。底の泥はひび割れ、湿り気すらない。

青黒い石を中央へ置く。

最初は何も起きなかった。

だが石が、ころり、と自分から亀裂へ転がり込んだ直後、地の底で低い音がした。次いで細い水柱が噴き上がり、ノエルの膝を濡らした。水は止まらない。見る間に足首、脛、膝へと満ちてくる。

引き上げられたノエルの頬へ、冷たい飛沫が散った。

村人たちは命令を待たなかった。桶を洗う者、古い水路の泥を掻き出す者、家から板を持ち寄って新しい汲み台を作る者。最初の一杯は最年少の幼子へ渡され、次は寝たきりの老人へ運ばれた。

ノエルは税の命令書を破り、井戸端に一枚の板を立てた。

『飲み水は無料。畑へ引く分だけ、使った桶数に応じて水路の補修を手伝うこと』

夕暮れ、完成した樋を透明な水が走った。歓声が上がった、その瞬間になって、遅れて表示が開く。

老村長が、おそるおそる尋ねた。領主が出した奇跡なら、水の半分は館へ運ぶのか、と。ノエルは首を振った。井戸を守るのは、水を飲む全員だ。自分だけの蔵へ囲えば、前任者と同じになる。すると鍛冶屋が補修用の鉄輪を無償で出し、羊飼いは夜番を申し出た。奇跡より先に、村の暮らしが自分たちの手へ戻ってきた。

《神話級〈星海の湧水核〉――世界初取得》