初対面は四回目

 羽咋眞魚は、恋活アプリで知り合った綱島聡志と、駅裏の小さなレストランで初めて会った。

 案内係は二人を見るなり笑った。

「お帰りなさいませ。今回も奥の個室でございます」

「初めてですけど」

 眞魚が言うと、聡志は案内係をにらんだ。

「僕が仕事で使ったことがあるんだ。君とは初めてだよ」

 個室には、すでに料理が用意されていた。

 パセリを抜いた魚料理。柑橘を使わないソース。デザートは眞魚が子どものころから好きな洋梨のタルトだった。

「好み、プロフィールに書いてた?」

「前にメッセージで聞いたよ」

 履歴を確かめたが、そんな会話はない。

 聡志は何度もワインを勧めた。

 眞魚が断ると、彼は「今日は慎重だね」とつぶやいた。

 化粧室へ逃げ込み、鏡を見る。

 右下に口紅で文字が書かれていた。

〈眞魚へ ワインを飲むな〉

〈これは初対面じゃない〉

 自分の筆跡だった。

 鞄を探ると、内ポケットの縫い目から折り畳んだレシートが三枚出てきた。

 日付は一か月おき。店も席番号も同じ。予約者は綱島聡志、同伴者は羽咋眞魚。

 どのレシートにも、眞魚の署名があった。

 一枚目の裏には、

〈飲んだあとの記憶がない〉

 二枚目には、

〈店員も仲間〉

 三枚目には、

〈次は化粧室から非常口へ〉

 非常口を探したが、扉には外から鍵が掛かっていた。

 スマートフォンは圏外だった。

 代わりに、削除済み写真のフォルダへ、見覚えのない動画が残っている。

 個室で泣く眞魚が、カメラへ話していた。

『これを見ている私は、たぶんまた最初だと思ってる。聡志は、私が逃げようとすると飲み物を替える。目が覚めると、会う前の一週間だけ忘れてる』

 背後で鍵が回った。

 案内係が化粧室へ入ってきた。

「お席へお戻りください。お連れ様がお待ちです」

「警察を呼んで」

「前回も、そうおっしゃいました」

 案内係は眞魚の手からレシートを取り、慣れた手つきで細かく破った。

 個室へ戻ると、ワインのグラスが新しくなっていた。

 聡志は優しく笑った。

「大丈夫。今回で四回目だ」

「何が大丈夫なの」

「毎回、僕をもう一度好きになれる」

 背後で扉が施錠された。

 案内係が小瓶を持って尋ねた。

「今回は、どこから忘れていただきますか」