勝者の食卓
屍肉王の首が転がった瞬間、エルドナの腹が鳴った。
地下食堂に隠れていた避難民たちが歓声を上げる。天井から垂れていた黒い舌は灰になり、腐った鍋の中で蠢いていた指も動きを止めた。少年ソメルだけは、血まみれの彼女を見て笑わなかった。
「六度勝った人は、七度目に何を失うの」
エルドナは答えず、剣についた脂を拭った。
彼女の力は、倒した魔物の飢えを自分へ移す。代わりに、人としての食欲が一つずつ消える。最初の勝利で甘味を、次に塩味を失った。三度目には満腹を忘れ、四度目には食卓を楽しいと思えなくなった。五度目には、母が焼いた黒パンの匂いが記憶から抜けた。六度目の朝、彼女は皿と石の区別を、用途でしか理解できなくなっていた。
それでも屍肉王を斬らなければ、食堂の扉の向こうにいる百人が食われた。前夜、彼女は剣帯を柱へ結び、勝った自分の目つきが変わったら外へ残せとソメルに教えていた。
ソメルが懐から固いパンを出した。包み紙には、炭で小さな太陽が描かれている。
「姉ちゃんに残してた」
エルドナは受け取った。噛めば粉が舌に張りつく。味はない。だが少年が待っているので、昔の自分ならしたであろう顔を作った。
「うまい」
その嘘を言った途端、屍肉王の飢えが目を覚ました。
床に伏す兵の傷口。壁際で泣く乳児の柔らかな頬。祈る女の首筋。すべてが湯気を立てる料理に見えた。七度目の勝利で失ったのは、食べてよいものと食べてはならないものを分ける感覚だった。
エルドナは自分の口を押さえた。手袋の革を突き破り、歯が掌へ刺さる。歯列はいつの間にか二重になっていた。
「扉を閉めろ」
「でも、外には姉ちゃんが」
「勝者を中へ入れるな」
ソメルは泣きながら鉄扉を引いた。隙間が細くなる前、パンをもう一つ投げてよこした。
エルドナはそれを拾わなかった。
扉の向こうで百の鼓動が遠ざかる。代わりに、自分の腹の底から、屍肉王と同じ声がした。
――まだ勝てる。まだ食える。
彼女は剣を喉へ当てた。だが剣先を見た瞬間、それが銀の食器にしか見えなくなった。