十三回目の台詞

火竜の尾が回廊を薙ぎ払い、黒瀬レントは少女NPCリュネを抱えて柱の陰へ転がった。

《会話履歴システム》

一度選んだ会話選択肢は、同一アカウントでは二度と選べません。

[大丈夫だ]は灰色。[俺が守る]も灰色。十二回の全滅で、励ましの言葉はほとんど使い切っていた。リュネは死ぬたび開始村へ戻り、同じ笑顔で護衛依頼を出す。記憶を保つのはプレイヤーだけ――そのはずだった。

「十三回目ですね」

レントの腕の中で、リュネが言った。

選択肢にない台詞だった。驚いて彼女を見ると、火竜が天井を崩す。レントは盾を上げ、残り少ない選択肢を開いた。

[黙ってついてこい]

[ここで待て]

[君はNPCだ]

どれを選んでも彼女の意思を否定する言葉だ。リュネは灰色の履歴を見上げるように目を細めた。

「あなたは毎回、違う言葉を選びました。だから私は、前にも同じ質問をしたのだと分かったんです」

記憶ではない。失われた選択肢の形から、過去を推理したのだ。

火竜のHPは残り一割。攻略班は最終攻撃を叫ぶ。だがリュネは反対側の扉へ走った。そこには《護衛対象専用》と表示された小さな退避門がある。

「そっちは君しか通れない!」

「はい。だから今回は、私があなたを護衛します」

彼女はレントを突き飛ばし、落ちていた火竜の鎖を退避門へ結びつけた。門が開く力で竜の巨体が引かれ、崩落しかけた回廊から攻略班が救われる。リュネ自身は炎の中に残った。

レントの前に最後の選択肢が出る。

[命令に戻れ]

彼は選ばなかった。時間切れになっても、リュネは動きを止めない。竜へ向き直り、自分の意思で剣を構えた。

《隠しクエスト「十三回目の護衛」達成》

《達成者:NPC・リュネ》

炎に包まれる直前、リュネは振り返った。

「次に会ったとき、同じ私でなくても、灰色になった言葉を見れば分かります。あなたが私へ何度も話しかけたことを」

レントは初めて、消えた選択肢が失敗の跡ではなく、二人の共有した時間なのだと思った。

《護衛対象を更新します――プレイヤーを救う決断をした者を、非自律キャラクターとは定義できません》