十八歳のまま、百八十年
網代律希は、百九十八歳だった。ただし、市民端末に表示される年齢は十八歳のままだった。
不老化処置は十八歳の誕生日に義務づけられている。一方、成人を「肉体年齢二十歳以上」と定めた古い法律だけが改正されなかった。そのため律希たちは、百年生きても未成年だった。投票はできない。賃貸契約には保護者の同意が要る。酒はもちろん、子どもの後見人にもなれない。
律希は児童居住棟の管理補助として、同じ制服を百八十年着た。入居してきた子どもたちは数年で十八歳になり、隣の棟へ移る。そこから先は誰も大人になれない。
律希には、法律上の保護者として四百歳の叔母がいた。叔母は月に一度、彼の給与口座や外出許可へ電子署名した。百年前に認知症を発症してからは、後見AIが叔母名義で承認を続けている。自分を世話できない人が、制度上は自分を守る大人だった。
ある冬、十二歳の少女が保護者を事故で失った。不死者は死なないはずだったが、深宇宙便の行方不明は法的死亡になる。少女は律希の袖を握り、「ここに残りたい」と言った。律希は後見を申請し、三秒で却下された。
審理室で行政AIは告げた。
「申請者は未成熟です」
「何をもって?」
「肉体年齢です」
「では、あの子が夜中に泣く理由を知っていますか」
「質問は審理と無関係です」
「私は知っている。百八十年、子どもの泣き声で起きてきたからです」
少女も証言台に立った。
「律希は、わたしより先に謝れる。だから大人です」
判決は限定的だった。成人年齢の定義を変えず、百年以上継続して他者を養育した者に後見資格を認める。役所は「例外」と呼んだ。ニュースは「制度の穴」と呼んだ。
その夜、律希は初めて児童棟の外に部屋を借りた。契約書の保護者欄には、少女が冗談で自分の名前を書いた。
「逆じゃない?」
「だって律希、初めて家を借りるんでしょ」
律希は笑って、二本線で消した。百九十八年目にして初めて、明日の弁当を二人分作る予定ができた。成人証より先に、彼は父親になった。