十本の指で止めた赤い川

北砦の石切り場で、滑車の鎖が切れた。

倒れた石工の腕から、赤い血が脈に合わせてあふれた。治療師は城壁の向こう、呼びに行っても戻るまで二十分。親方は薬草の粉を傷へ振り、布を巻いては何度もめくった。

「止まっているか見なければならん!」

そのたび、布の下から新しい血が走った。

異界から流れ着き、荷運びしか任されていなかったアシュラフは、親方の手をつかんだ。

「見るのをやめて、押し続けます」

「平民が治療師の真似をするな!」

アシュラフは答えず、清潔な麻布を厚く畳んで傷へ置いた。両手を重ね、体重をまっすぐかける。血が染みても最初の布を剥がさず、上へもう一枚足した。

一分。二分。三分。

さっきまで石床を伝っていた赤い筋が、掌の下で止まった。石工の唇に色が戻り、「痛い」と悪態をつく。親方が確かめようと布へ手を伸ばすと、アシュラフは睨み返した。

「治療師が来るまで、開きません」

到着した治療師は、布を固定してから石工の脈を取った。

「よく押さえた。あと五分遅ければ、私の術でも血が足りなかった」

石床に残った血は、最初の三分で流れた分だけだった。普段なら一人の負傷で麻布を十五枚使う救護箱も、今日は三枚しか減っていない。

親方は「偶然、傷が浅かった」と呟いた。治療師は無言で傷口を見せた。骨まで届く深さに、親方の顔が白くなる。

石工は治療台へ移される前、アシュラフの手を握った。握り返す力がある。現場にいた二十七人は、魔法の光ではなく、布の上から動かなかった十本の指を見ていた。薬草粉は一袋で銀貨五枚、圧迫布は一枚で銅貨二枚。しかも粉を振る時間より、押し始めるほうが早い。親方が数えた救護開始までの時間は、事故から二十三秒だった。

さらに包帯を巻いた腕で事故記録へ自分の名を署名し、「意識あり、会話可能」と残した。

砦司令はその場で、救護箱すべてへ厚い圧迫布を追加する命令を書いた。最後に新しい腕章をアシュラフへ渡す。

『北砦救護補助長』

「次から、血を見る者ではなく、止められる者を先頭に置く」