午前三時の青いパレット

午前三時、冷凍倉庫の床は、息をするたび靴底まで白く曇った。

「四時便の離乳食、一パレット足りません」

配車係の声に、澄川律は手袋を締め直した。ハンディの記録では、青いパレットは六番ロケーションに入庫済み。だが棚には同じメーカーのスープしかない。班長は「未計上だろう。全棚を探せ」と言った。残り五十分。冷凍庫には似た青い荷が百枚以上あり、闇雲に回れば間に合わない。探す人数を増やせば通路が塞がり、出荷中の別便まで遅れる。律は応援を呼ばず、最後にその荷を見た者と、動かした車両だけを確認した。

律は端末を置き、床にしゃがんだ。六番棚の前だけ霜が削れ、二本の細い線が通路の奥へ続いている。リーチ車のタイヤ跡だった。途中で線は消えたが、壁際の防火扉に新しい擦り傷がある。

「隔離区画を開けます」

「そこは破損品だけだぞ」

扉の向こうに青いラップが見えた。箱は無傷だったが、上段に載った一箱の角が潰れ、夜勤の新人がパレットごと隔離したらしい。問題は、その一箱だけを外す前に、入庫確定を押していたことだった。新人は「戻す場所が分からなくて」と震えた。律は叱らず、隔離票に元のロケーションを書く欄がないことを見た。迷った人間だけの失敗ではなかった。

班長が安堵して扉を全開にしようとした。律は腕で止めた。

「外気が入る。ここで積み替えます。必要数だけ出して、温度を上げない」

彼女は破損箱の製造番号を照合し、同じロットが下段に混ざっていないことを確認した。代替の空パレットを横づけし、二人一組で箱を移す。急げと言われても、崩れやすい最上段から手をつけなかった。下の荷重を先に抜けば、潰れた角を支点に全体が倒れると読んだからだ。

四時五分前、青いパレットは冷気をまとったままトラックへ入った。配車係が親指を立てる。班長は「よく見つけた」と言いかけて、律の足元に残る白い線を見た。

「記録より、跡か」

「記録を作るのも人ですから」

シャッターが閉じると、館内放送が鳴った。三時五十八分着予定だった生鮮便が、もうバースに入ったという。

律は凍った手袋を外さず、次の青いパレットを受け取りに歩きだした。