午前二時十三分の回転
都紀がコンビニへ行くのは、空腹よりも部屋の静けさに負けた夜だった。
パソコンを閉じても、画面の四角い明るさだけが目の裏に残った。冷蔵庫は十七秒うなり、三秒黙る。その繰り返しを数えているうちに、自分まで家電の一部になった気がした。
外は細い雨だった。傘を差すほどではなく、差さないには少し冷たい。角を曲がると、コンビニの看板が濡れた歩道へ白と緑を長く伸ばしていた。
自動ドアが開き、短い電子音が鳴る。店内の空調は季節を忘れたように一定で、濡れた前髪だけが遅れて冷えた。
都紀はスープを一つ選んだ。鶏だしと生姜。レジで温めてもらい、電子レンジの前に立つ。
透明な扉の向こうで、容器が回っていた。正面を向き、横を向き、成分表示を見せ、また正面へ戻る。残り一分二十秒。回転皿は同じ場所に来るたび、かすかに、き、と鳴った。
店の奥で補充用の段ボールがこすれる。レジ袋が空調にあおられて一度ふくらみ、しぼむ。雨がガラスを細くたたく。
残り四十二秒のとき、自動ドアがまた鳴った。
誰かが入ってきて、濡れた靴底で床を二歩、三歩と鳴らした。都紀は振り返らなかった。背後の棚でペットボトルが一本抜かれ、隣の一本が小さく触れ合った。
それだけだった。
床に残った水跡は棚の角で途切れた。都紀の靴跡とは重ならず、白い床に二本の短い道を作っていた。
知らない人の咳払いが一つ。冷蔵ケースの扉が閉まる音。今夜のこの明るい箱に、自分とは別の眠れない理由が持ち込まれたのだと思った。
電子レンジが三度鳴った。容器はちょうど成分表示をこちらに向けて止まった。
都紀は袋を受け取り、店を出た。軒下には黒い自転車があり、サドルに雨粒が並んでいた。持ち主の姿は見えない。
部屋へ戻れば、冷蔵庫はきっとまた十七秒うなり、三秒黙る。それでも今は、手の中のスープが袋越しに脈打つように温かい。
都紀は傘を開かなかった。雨の細さに歩幅を合わせた。
今夜の静けさなら、もう少しだけ、自分で持って帰れそうだった。