午前十一時の朝礼
烏庭亨と妹のこよみは、午前十一時に朝礼をする。
二人とも無職で、亡き祖父が残した一階店舗の家賃を折半し、二階の古い住居で暮らしている。贅沢をしなければ食べていけるが、世間へ説明するときは少し長くなる。
「本日の議題」
こよみが座布団の上でノートを開く。
「昼飯」
「昨日も同じだった」
「毎日必要だから重要案件です」
亨は寝癖のまま、卓袱台へ頬杖をついた。
冷蔵庫にあるのは卵二個、食パン三枚、萎びた小松菜。買い物へ行く案を出すと、こよみは窓の外を見た。
「風が強い」
「スーパーは徒歩四分」
「往復八分も強風」
却下された。
次の議題は、どちらが洗濯物を取り込むか。
「昨日、俺が干した」
「干すのと取り込むのは別部署」
「部署は二人しかいない」
「だから兼務が問題になる」
二人はしばらく黙り、遠くで布団が物干し竿を叩く音を聞いた。
結局、昼は卵サンドになった。
亨がゆで卵を潰し、こよみが食パンを焼く。三枚しかないので、一枚は半分に切った。
「端数は?」
「社長が取る」
「社長は誰」
「ノートを持ってる方」
亨は抗議したが、こよみは半枚をさらに二つへ切った。社内紛争は四分の一枚ずつで解決した。
焼けたパンへ卵を挟むと、黄身とマヨネーズの匂いが古い台所へ広がった。小松菜は塩で炒め、昨夜の味噌汁へ入れる。
窓際の小さな卓で食べながら、二人は午後の予定を確認した。
「私は図書館」
「俺は昼寝」
「生産性が低い」
「図書館も本を借りるだけだろ」
「知的活動」
「昼寝は身体保守」
食後、こよみは本当に図書館へ行き、亨は本当に昼寝をした。
三時すぎ、帰ってきたこよみが、商店街でもらった試供品の珈琲を淹れた。香ばしい湯気に気づき、亨が起きてくる。
「無職は匂いで起動する」
「正常な仕様です」
二人で窓を開けると、風はもう弱くなっていた。乾いた洗濯物が陽の匂いをまとい、竿の上で揺れている。
どちらが取り込むか決めないまま、二人で袖と端を持った。
朝礼の議事録には、こよみが最後にこう書いた。
〈昼食、可決。洗濯物、共同事業。明日の議題、明日決める〉
珈琲は少し薄かったが、夕方まで飲むにはちょうどよかった。働かない一日は、何も起こらないまま、パンと日向の匂いを残してゆっくり閉じた。