半分だけの散歩
十六歳になったバスコは、赤い郵便ポストまで行くと、決まって家へ引き返すようになった。
昔は川沿いを一時間走っても息を切らさなかった。今は後ろ脚が震え、玄関の二段を下りるだけでも時間がかかる。
「もう散歩は嫌なのかな」
そう言うと、中学二年の娘は首を振った。
「嫌なんじゃなくて、必要なぶんだけ歩いてるの」
娘は三か月前から学校へ行けなくなっていた。朝になると腹痛を訴え、制服を着たまま部屋へ戻る。理由を尋ねても、「別に」としか答えない。
ある朝、目覚ましより早く鎖の鳴る音がした。窓から見ると、娘がバスコの胴へ補助ベルトを回していた。
二人はゆっくり坂を上った。私は上着をつかみ、気づかれないよう後を追った。
赤いポストで、バスコは座った。そこは家と学校のちょうど中間だった。
娘は犬の前にしゃがみ、白くなった眉間を撫でた。
「今日も、ここまででいいよ」
バスコは動かなかった。
「大丈夫。残りは一人で行く番だから」
娘が校門の方へ歩き始めると、ようやく立ち上がった。振り返る娘へ、尻尾を一度だけ振る。昨夜は寝返りさえ打てなかった老犬が、朝のために力を残していたのだ。
あとで聞くと、最初に家を出られた日、娘はバスコを連れてポストまで歩いたという。そこから先へ進めず泣いていると、バスコは帰らず、隣に座り続けた。翌日はポストから十歩。その次は電柱まで。少しずつ距離を延ばし、今では一人で校門をくぐれるようになっていた。
「言ってくれれば、私も一緒に歩いたのに」
「お母さんは、行けるかどうかを心配するでしょ。バスコは、歩いたぶんだけ見てくれるから」
卒業式の朝、バスコはもう立てなかった。
娘は制服姿のまま彼を毛布に乗せ、私と二人で赤いポストまで運んだ。胸には卒業証書、首輪には娘の校章を結んだ。
「半分まで来てくれたから、残りを歩けたよ」
バスコの目はほとんど見えていなかった。それでも声の方へ鼻を上げ、毛布の上で尻尾を二度鳴らした。
帰り道、娘は証書より重い毛布を抱き、休もうとしなかった。
今度は自分が、家まで連れて帰る番だった。