半額シールの火曜日
火曜日の夜九時四十七分、スーパーのレジで渡されたレシートは、細長い舌みたいに買い物かごから垂れていた。
牛乳、食パン、洗剤、袋入りサラダ。そこまでは予定通りだった。その下に、半額のコロッケ二個、三割引のポテトサラダ、値引きされた焼き鳥が並んでいる。空腹のときの私は、家に帰れば何でも食べられる人になる。
ワンルームの鍵を開け、パンプスを脱いだところで、会社のチャットが一度だけ震えた。明日の朝でもいい確認だった。分かっているのに画面を開き、短い返事を打つ。買い物袋は床に置いたまま、コートも着たままだった。
テーブルには、朝飲んだコーヒーのマグカップと、開きっぱなしの郵便物がある。一人分の部屋なのに、片づける人も散らかす人も同じだから、帰宅した瞬間に朝の自分から仕事を引き継ぐことになる。私はマグカップを流しへ移すことさえせず、袋の持ち手だけをほどいた。
ようやく台所に立ったころには、揚げ物の油は白く固まりかけていた。電子レンジにコロッケを入れ、表示された「一分三十秒」を見つめる。ボタンを押すだけなのに、急に長い作業に思えた。
冷蔵庫には昨日洗ったままの小松菜がある。炊飯器は空。味噌汁なら作れる。卵もある。頭の中で、ちゃんとした夕食の部品が整列し、私を待っていた。
私はコロッケを一個だけ小皿にのせた。温めず、ソースもかけず、袋入りサラダをフォークで二口食べる。冷たい衣は少し甘く、思っていたより悪くなかった。
食卓の向かい側には、通販で買った椅子が一脚ある。荷物置きになっていて、今日は洗ったエコバッグが背にかかっていた。誰かに見られる夕食なら皿を増やしたかもしれない。けれど、見ているのは私だけで、その私がもう十分だと言っていた。
残りの惣菜を冷蔵庫にしまうと、レシートが床に落ちた。合計千八百四十六円。買いすぎた、と胸の奥で誰かが言う。けれど、明日の朝には牛乳があり、明日の夜にも食べるものがある。
私はレシートの余白に、冷蔵庫の磁石につけていたペンで「火曜、コロッケ一個」と書いた。献立でも家計簿でもない。ただ、今日の私が夕食を抜かなかった記録だ。
皿を流しに運ぶ前に、もう半分だけかじった。冷たいままでも、今日はこれでよかった。