同じ一時間の値段

小比賀紗和と室生倫平が最後に会ったのは、二十四時間営業のコインランドリーだった。

紗和のマンションには乾燥機がある。倫平のアパートには洗濯機さえない。二人が付き合い始めた場所だからという理由で、金曜の夜だけはここで会った。

紗和は外資系企業で働き、翌月からシンガポール支社へ移る。倫平は配送の仕事と深夜清掃を掛け持ちし、母の入院費と弟の学費を払っていた。

「一緒に来て」

乾燥機が回る音の中で、紗和は言った。

「向こうの家賃は会社が出す。仕事が見つかるまで、生活費も私が」

「それを聞くたび、行けなくなる」

「どうして。払えるほうが払えばいいでしょう」

「金の話だけじゃない」

倫平は携帯電話の勤務表を見せた。

紗和と会う二時間のために、彼は夜の配達を一本断っていた。失うのは二千八百円。紗和にとって二時間は、会議をずらせば作れる時間だった。

「俺たち、同じ時間を過ごしてたんじゃない。紗和は予定を空けて、俺は収入を削ってた」

「だったら、その分も私が払う」

「ほら。俺が傷つくたび、紗和は払える」

紗和は言葉を失った。

彼女は金で人を見下したことなどなかった。むしろ差をなくしたくて、旅行代も食事代も多く出した。けれど倫平にとっては、助けられるたび、恋人でいることが援助を受け入れることへ近づいていった。

「私が悪いの?」

「悪くない。俺も、受け取るのが下手だ」

「好きなら、越えられない?」

「好きだから、越えたふりを続けたくない」

乾燥が終わり、機械が静かになった。

紗和は自分の白いシャツを、倫平は清掃用の黒い制服を畳んだ。同じ熱で乾いたはずなのに、二つの服は違う朝へ戻っていく。

「空港には来ないで」

紗和が言った。

「配達がある」

「そうじゃなくて」

「分かってる」

倫平は百円硬貨を一枚、洗剤販売機の上へ置いた。初めて会った夜、紗和が両替機の故障で困っていたとき、彼が貸した一枚だった。

「返すの、遅い」

「利子は払えない」

「知ってる」

二人は笑い、別々の出口から外へ出た。

紗和の一時間も、倫平の一時間も、時計では同じ長さだった。

ただ人生の中で払う値段だけが違い、その差を愛で無料にはできなかった。