呪いの王冠は価値ゼロ

王女の戴冠式で、末席の鑑定士イゼルだけが膝をつかなかった。

祭壇に置かれた黄金の王冠から、黒い煙が指のように伸びていたからだ。だが宮廷筆頭鑑定士は鼻で笑う。

「市場の壺しか見られぬ三流が。これは初代王の至宝、値など付けられぬ」

イゼルの目には、いつもの文字が浮かんでいた。

【鑑定:対象の価値を定める。価値は用途、所有者、状況によって変動する】

これまで彼は、その文を「正しい値段を知る」だけの能力だと思っていた。王冠の値は確かに莫大だった。だから黙らされ、王女の頭へ載せられる。

次の瞬間、黒煙が王女の首に巻きついた。

「王家の血を食わせろ!」

王冠の内側から、処刑された暴君の声が響く。騎士の剣も、神官の浄化も弾かれた。筆頭鑑定士は「国宝を傷つけるな」と叫ぶばかりだった。

イゼルは祭壇へ駆けた。見るべきものは王冠ではない。王女を締め上げる、あの呪いそのものだ。

価値を知るのではない。説明文には、価値を「定める」とあった。

「鑑定対象、王冠に宿る暴君の呪詛」

黒煙が彼の腕にも食いつく。骨が軋んだ。それでもイゼルは、競売場で何千もの品に値札を付けてきた声で言い切った。

「用途なし。所有者なし。王国に害しか与えない。よって――価値、ゼロ」

世界がその査定を受理した。

黒煙は急に薄くなり、値打ちのない煤のように床へ落ちた。王冠から宝石が外れ、金色の塗装が剥げる。中から現れたのは、暴君が自分で作らせた錆びた鉄輪だった。

王女は息を取り戻し、筆頭鑑定士を見下ろした。

「値を付けられぬのではなく、偽物だと認めたくなかったのですね」

彼が受け取っていた賄賂の帳簿まで、王冠の底から転がり出た。

広場では、王冠を神聖視していた貴族たちが一斉に目を逸らした。反対に、偽物だと訴えて投獄されていた老細工師が牢から連れ戻される。王女は彼の手を取り、国宝とは値段ではなく、国を守ろうとした者の仕事だと宣言した。筆頭鑑定士の徽章はその場で外され、煤になった呪いと同じ袋へ放り込まれた。

イゼルの視界で、長年変わらなかった職業欄が金色に燃えた。

【職業:市場鑑定士 → 価値零定官】