四十円ぶんの告発

通信指令室の再生卓で、萩尾静馬警部補は四十秒の通報を七回聞いた。

情報屋の飯室源太は、二十年も暴力団の噂を小銭に換えてきた男だった。前夜、古い公衆電話から一一〇番し、明け方には河川敷で意識不明のまま見つかった。捜査本部は報復事件として扱うという。だが通報記録は「酩酊者の支離滅裂な申告」とされ、廃棄承認を待っていた。

――四十円しかない。班を寄越すな。来るのは、あいつらだから。

「誰のことです」と受理員が問う。

――警察の無線を持ってる連中だよ。車は品川三三一、最後が七〇六。俺の名前を買ったのは、そっちの人間だ。

そこで硬貨の警告音が鳴り、飯室は早口になった。

――通報を止めた職員番号を見ろ。それが答えだ。

通話は切れた。萩尾が指令ログを開くと、最寄りの地域警ら車は一度出動指定され、十九秒後に解除されていた。解除者は組織犯罪対策課長の端末。理由欄には「登録情報提供者による虚偽通報」とある。ところが飯室の協力者登録は秘匿区分で、閲覧できるのは担当刑事と副署長だけだった。

背後で当直管理官が言った。

「課長は飯室の癖を知っていた。余計な波を立てるな。こいつは金のためなら何でも売る」

「自分の名前も、ですか」

「情報屋に正義を期待するな」

萩尾は車両照会をかけた。品川三三一、末尾七〇六。県警本部名義の覆面車だった。使用簿には昨夜の記載がなく、現在地も空欄。車載無線は、飯室の発信地点から八百メートル以内で一度だけ中継局を掴んでいた。通信指令室から照会した事実は、すぐ課長へ通知される。

管理官が廃棄承認票を机へ滑らせた。

「押せ。飯室を信じれば、組対全体が容疑者になる。お前の弟もあの課だろう」

萩尾は承認票ではなく、通報原音、出動解除履歴、覆面車の照会結果を一つの保全記録へ束ねた。弟の職員番号も閲覧権限者一覧にあった。胸の奥が冷えたが、外す理由にはならなかった。

彼は提出先を署内監察から地方検察庁へ変更し、四十円ぶんの声を添えて送信した。