国境線はクレヨン色
六畳の子ども部屋を、姉と弟は青いクレヨンの線で二つに分けた。
「こっちが北王国。そっちは南共和国」
「ぼくも王国がいい」
「王様が二人いると戦争になるからだめ」
入国には、飴の包み紙で作った旅券が要る。姉の机へ消しゴムを借りに行くにも一枚。弟の積み木を踏んでしまったときの謝罪にも一枚。旅券が尽きると、肩たたき三十秒で発行された。
戦争は、青いクレヨンをどちらが所有するかで始まった。
「国境を引いたのは私」
「でも半分よりこっちに落ちてた」
二人は休戦せず、夕飯も別々に食べると言い張った。母は皿を部屋の前に置き、「外交で解決しなさい」と笑った。
その晩、雷が鳴った。
弟は毛布を引きずり、国境の向こうで立ち止まった。手には、最後の飴の包み紙がある。
「避難したいです」
姉は本を読みながら言った。
「北王国は満員です」
窓が白く光り、弟の肩が跳ねた。
「床だけでいいです」
「旅券がしわしわ」
「雨にぬれました」
部屋の中なのに、と姉は思ったが、包み紙へ鉛筆で入国印を押した。
翌月、父が物置を片づけ、姉だけの部屋を作った。姉は喜び、弟も「これで南も王国にする」と喜んだ。
けれど最初の夜、姉の新しい部屋の扉が三回鳴った。
「国境がないから、入国できない」
弟は旅券を握っていた。姉は少し考え、例の青いクレヨンを取り出した。廊下へしゃがみ、弟の部屋から自分の部屋まで、長い線を引く。
「これは国境じゃない。鉄道」
「どっちの国の?」
「両方。夜だけ走る」
弟は線を踏まないように歩き、姉の布団へ潜った。
朝、父と母は廊下の青い線を見つけた。叱られると思ったが、父は線をまたぎ、母もまたいだ。
「この鉄道、台所まで延ばしていい?」
母が尋ねると、姉と弟は顔を見合わせた。
「旅券はいらない?」
「家族は、乗り放題」
青いクレヨンは二つに折れた。姉と弟は一本ずつ持ち、それぞれの部屋から線を伸ばした。
二本の線は廊下の真ん中で少し曲がり、ちゃんとつながった。
世界でいちばん短く、いちばん大切な鉄道だった。