地底軍団を畑返し
小作農バルソは、王国軍の陣地で鍬を取り上げられた。
「戦場に農民はいらん。土を掘るしか能のないハズレ職め」
将軍の脇で笑ったのは、バルソから三年分の収穫を奪った領主だった。平原の地下には敵軍が掘った無数の坑道が迫っていると、バルソは土の沈み方で何度も訴えた。だが偵察騎士は何も見えないと報告し、領主は臆病者の妄言として鞭を振るった。
成人の日に得た技能も、戦士には笑い話だった。
【畑返し:契約上の耕作地一枚を、任意の深さまで表裏反転させる。面積と土質は問わない】
「なら明朝までに、この平原全部を耕せ」
領主は嘲りながら、戦場全域を銅貨一枚で一日だけ貸し与える契約書へ署名した。働けなければ処刑するつもりだった。
夜半、地面が一斉に盛り上がった。敵の地底軍団が城壁直下から現れ、眠る王国軍を内側から潰そうとしていた。土竜騎兵、爆薬車、黒鉄の攻城獣。十万の敵が地下一尺まで迫り、将軍はようやくバルソの警告が正しかったと悟った。
「鍬を返せ!」
バルソは領主の手から鍬を奪い、契約書を地面へ突き刺した。
今、この平原は彼の耕作地だった。
鍬を一度だけ引く。
地平線まで続く大地が、巨大な畝のように裏返った。地下の坑道は空へ開き、敵兵も攻城獣も、土を詰めた袋のように地表へ転がり出る。代わりに王国軍側の空の塹壕が下へ沈み、敵の足だけを深く埋めた。
十万の軍勢は一歩も動けない。武器庫も指揮所も白日の下へさらされ、降伏旗が次々と上がった。
裏返った土の中からは、領主が隠していた徴税金の箱まで現れた。農民たちの名が書かれた札を見て、将軍の顔色が変わる。
バルソは鍬についた土を一度払った。
降伏した敵工兵は、坑道の位置を最初から見抜いていた者へ敬礼した。王国兵もそれに続き、領主の鞭を取り上げる。救われた村の農民たちは、裏返った黒土を見て、来年はよく実ると笑った。将軍はバルソへ剣ではなく、新しい土地台帳を差し出した。
《職業が【小作農】から【天壌翻耕王】へ書き換わりました》