城壁より硬い門番

夜明けと同時に、北城壁の亀裂が光った。

敵将バルディオは丘の上で笑った。三日前、城内の内通者に要石を抜かせてある。仕上げに地中火薬へ火を入れれば、三百年落ちなかった城壁も、避難民ごと内側へ倒れる。

爆音が走り、塔が傾いた。

城門前に残っていたのは、門番ナシュカ一人だった。攻撃技能なし、魔力なし。槍も抜かず、右手を門の取っ手に置いている。降伏勧告に返した言葉は、「まだ最後の子が通っていない」だけだった。

城壁が崩れた。家ほどの石塊が雪崩れ、門と女を呑み込む。敵兵は勝鬨を上げた。

だが、バルディオは声を上げなかった。

土煙の中で、門の蝶番がまだ軋んでいた。開いたままの門が、一寸も傾いていない。あれだけの石が落ちたなら、音など残るはずがなかった。

煙が晴れる。

ナシュカは同じ姿勢で立っていた。右手は取っ手、左手は槍の柄。落ちた巨石は彼女を中心に半円状へ砕け、最後の避難民である少年が、その背後を駆け抜けていく。

丘の敵兵たちは、そこで初めて勝鬨をやめた。攻撃を受け流したのなら、石は別の場所へ飛ぶはずだ。だが門の後ろの避難民にも、城内の家屋にも傷はない。崩落の力だけが、ナシュカへ触れた瞬間に消えている。百戦した工兵ほど、その不自然さを理解して青ざめた。

「防壁魔法だ! 術者を射抜け!」

バルディオは自分に言い聞かせるように叫んだ。魔法なら光る。陣が浮かぶ。限界がある。そうでなければ、城を落とすために費やした半年が、門番一人より軽かったことになる。

彼は攻城槍〈城喰らい〉を引かせた。竜骨の軸に六重の加速術を刻み、山門を三つ貫いた兵器だ。

「放て!」

槍が空気を焼き、ナシュカの胸へ直撃した。轟音と白煙が門前を覆う。

静かになったあとも、門は開いていた。

ナシュカは右手を取っ手に置いたまま、丘の敵将を見上げている。胸元には傷どころか、布の皺一つ増えていない。

バルディオがようやく異常を理解したのは、跳ね返った〈城喰らい〉が足元へ突き刺さったときだった。穂先から入った亀裂が竜骨の軸を走り、攻城槍は音を立てて砕けた。