塩二枚分の冬肉

「異世界人に肉蔵を任せる? 塩の値段も知らん奴にか」

肉商人ガルドの嘲笑に、真壁穣は黙って秤を借りた。

北境伯領では、冬越し用に屠った魔牛の肉が三日で臭い始めていた。これまでは表面が白くなるまで塩を擦り込んでいたが、辛すぎて兵が食べず、薄ければ腐る。倉庫には捨てられる肉が山になっている。

去年は保存肉の三分の一が廃棄され、春先の兵は一日一食まで減らされた。その責任を、ガルドは異世界から来たばかりの穣に押しつけようとしていた。

「失敗すれば、お前の給金で肉代を払わせる」

周囲の職人は目を伏せた。金貨二百枚。払える額ではない。

穣は肉を一塊ずつ量り、重さの二パーセントだけ塩を計った。

「たったそれだけか」

「多くても少なくても駄目です」

講釈はせず、塩を均一にまぶし、布で包んで札を付けた。ガルドは鼻で笑い、自分の樽にはいつもの倍量を投げ込んだ。

毎朝、穣は札の重さを記録し、肉の上下を返した。塩を足すことは一度もない。四日目、ガルドは「腐る前に逃げたほうがいい」と笑ったが、穣の包みから嫌な汁は出なかった。

七日後、伯爵の食卓に二枚の肉が並んだ。

ガルドの肉は灰色で、焼けば表面に塩の結晶が吹いた。端を切っただけで板の上へ水が溜まる。噛んだ伯爵は水を三杯飲み、それでも眉をしかめた。

穣の肉は深い赤を保ち、刃を入れると脂が薄桃色に透けた。七日で減った重さは一割だけ。鉄鍋に置いた瞬間、肉の香りが立ち、焼き汁が澄んだ玉になって弾ける。

伯爵が一切れ噛む。

「……柔らかい。塩辛くないのに、肉の味が濃い」

兵長も続き、皿はすぐ空になった。

穣は残りの札を差し出した。四十七塊、すべて同じ割合で仕込んである。衛兵が包みを開いて回ったが、廃棄は一つもない。

会計官が去年の数字と並べた。塩代は六割減、食べられる肉は二倍。春の不足分まで残る。

ガルドが青ざめて自分の樽を見る間に、伯爵は肉蔵の鍵を穣へ投げた。

「今冬の保存肉、全量を任せる。報酬は捨てずに済んだ肉の半額だ」

銀貨の計算が始まるより先に、穣は鍵を受け取った。