娘さんは三人います

桐ケ谷家の座敷で、青年は背筋を伸ばした。

「本日は、お嬢さんを僕にくださいとお願いに来ました」

父の佐久磨は湯呑みを置いた。

「どのお嬢さんだ」

「え?」

「うちには三人いる」

青年の額に汗が浮いた。長女の弓乃、次女の帆南、三女の小麦。廊下では三姉妹と母が聞き耳を立てている。

「もちろん、いつも一緒にいる方です」

父は腕を組んだ。

「三人とも同じ会社だな」

「よく笑う方です」

「全員うるさい」

「料理が得意で」

「長女は菓子、次女は中華、三女は冷凍食品の解凍が得意だ」

廊下から「解凍も温度管理!」と小声が飛んだ。

青年は助けを求めるように襖を見るが、誰も出てこない。

「初めて会ったのは駅前でした」

父が指を折る。

「長女は駅前の洋菓子店、次女は駅前の中華店、三女は駅前で冷凍食品を買う」

「買う場所まで特技へ寄せないで」と母の声。

父はさらに身を乗り出した。

「娘のどこが好きだ」

「僕が失敗しても、笑って許してくれるところです」

襖の向こうで三人が同時に息をのむ。

「長女は笑って記録する。次女は笑って説教する。三女は笑って母へ報告する」

「違いが悪質です」と青年。

「呼び方は?」

「普段は、ゆっちゃんと」

襖の向こうがざわついた。

長女は弓乃で「ゆみちゃん」。次女は帆南だがミドルネームのように友人から「ゆう」と呼ばれ、三女の本名は小麦でも家族内では幼いころから「ゆっこ」。

父が低く尋ねる。

「三人とも“ゆ”が付くぞ」

「そんな罠がありますか」

「親が付けた」

「犯人が目の前に」

青年は覚悟を決めた。

「では、フルネームで言います。僕は桐ケ谷——」

襖が勢いよく開き、三姉妹が横一列に座った。

「せーので指さして」と母。

青年は迷わず、三女の隣に置かれた鳥かごを指した。

全員が固まる。

鳥かごの中で、白い文鳥が「ユッチャン」と鳴いた。

青年は青ざめた。

「違います! 今、声のした方を反射的に!」

三女の小麦が腕を組む。

「私との結婚の挨拶で、文鳥を選んだの?」

父は初めて笑った。

「相手は分かった。覚悟の弱さも分かった」

結婚の許可は出たが、文鳥には最後まで警戒された。