安全バーは下りていました
【遊園地転落事故・運転担当者聴取記録】
午後四時二十二分、回転式遊具の六号車から女性客が転落し、搬送先で死亡した。
運転担当者は、発車前の確認に問題はなかったと証言した。
「安全バーは胸の位置まで下りていました。ロック表示も緑でした。私は指差し確認をしています」
「走行中、異常は?」
「二周目の第三カーブで、女性がバーを持ち上げようとしていました。危ないと思って停止ボタンへ手を伸ばしましたが、間に合いませんでした」
「それをどこで見たのですか」
「操作室の監視画面です」
遊具の監視カメラは、乗降場だけを映す。
走行区間にカメラはなく、第三カーブは看板の裏側で、操作室からも見えない。
「鏡に映ったのかもしれません」
「鏡は一周目の直線しか確認できません」
担当者は黙った。
整備記録では、安全バーに故障はない。
六号車は左右二席を一本の軸で固定する構造で、片側だけが開くことはない。同乗していた男性客のバーは、停止後もロックされたままだった。
「女性が体をすり抜けさせたんです。細い人でしたから」
担当者はそう説明した。
捜査員は現場写真を机へ置いた。
女性の上着には、バーへ挟まれた圧迫痕がない。代わりに、腰の後ろへ油のついた半円形の跡があった。
「発車前、あなたは何をしましたか」
「全員のバーを押して確かめました」
「六号車だけ、座席の後ろへ回っていますね」
乗降場の映像には、担当者が女性の背後でしゃがみ、操作盤の死角へ右手を伸ばす姿が残っていた。
六号車の裏側には、整備時にだけ使う個別解除レバーがある。封印線は切られ、表面から担当者の手袋と同じ繊維が検出された。
「レバーを引いても、表示灯は緑のままなんですね」
捜査員が言うと、担当者は反射的に答えた。
「三秒以上引かなければ、警報も鳴りません」
室内が静かになった。
捜査員は、まだ解除方法も警報の条件も説明していなかった。
被害者の携帯電話には、担当者からのメッセージが残っていた。
〈今日、最後にもう一度だけ話したい〉
〈断るなら、乗っている間に後悔する〉
担当者は、女性とは初対面だと証言していた。
「事故ですよ」
彼は繰り返した。
「安全バーは、ちゃんと下りていました」
捜査員はうなずいた。
「ええ。下りているように見える位置で、あなたがロックだけ外したのでしょう」