家族ではない人

榎並家の正月写真に、穂澄が入ったことは一度もなかった。

「これは血のつながった家族だけ」

義母の八千代はそう言って、穂澄にカメラを持たせた。法事の相談にも呼ばず、台所から意見を言えば「嫁は黙っていればいい」。夫の泰生は、そのたびに目をそらした。

義父が脳梗塞で倒れた春、退院支援室には八千代と泰生、それに遠方に住む二人の娘が集まった。理学療法士が、義父には歩行介助と夜間の見守りが必要だと説明する。

「穂澄さんが仕事を辞めます」

八千代は、献立を決めるような口調で言った。

「若い嫁が家にいるんですもの。同居して、お父さんを看るのが一番でしょう」

二人の娘もすぐにうなずいた。

「私たちは子どもがいるから」

「穂澄さんは在宅勤務だし、できるよね」

泰生まで言った。

「家族なんだから、頼むよ」

穂澄は鞄から一枚の紙を取り出した。数年前、八千代が作り、全員に署名させた《榎並家親族行事規約》だった。

第一条、嫁は親族間の財産、祭祀、介護その他の決定に関与しない。

第二条、家族写真および親族席には血族のみが加わる。

「お義母さんのご希望どおり、私は関与しません」

八千代の顔がゆがんだ。

「都合のいいときだけ他人ぶらないで!」

「都合のいいときだけ家族にしないでください」

穂澄は、転居届の控えと新しい賃貸契約書も並べた。泰生が父の介護を勝手に引き受けた時点で、夫婦は別居に合意している。仕事を辞める予定も、同居する予定もない。

退院調整看護師が穂澄へ確認した。

「身体介護、金銭管理、緊急呼び出し、そのいずれも引き受けないという意思で間違いありませんね」

「はい」

看護師は書類の《主介護者》欄に書かれていた穂澄の名を二本線で消した。

八千代が息をのみ、泰生が立ち上がる。

「じゃあ、誰が父さんを看るんだ」

看護師は空いた欄へ、ゆっくり書き直した。

《長男・榎並泰生》