封印番号八一七
犬飼直央は、取調室へ持ち込まれた赤い破片を見て首を振った。
「それ、俺の車じゃない」
鷹羽祥吾巡査部長は透明袋を裏返した。ひき逃げ現場で回収されたテールランプ片。鑑定書では犬飼の配送車と材質も割れ目も一致している。今夜、認めさせれば署長会見に間に合う。監視窓の向こうには九鬼誠司警視がいた。
「お前の車は、押収時から右後部が割れていた」
「署に着くまでは割れてなかった。積載場のカメラを見ろ」
「都合のいい映像があると思うか」
「ないと思って壊したんだろ」
挑発だ、と鷹羽は切り捨てかけた。だが犬飼は破片ではなく、袋の右上を見ていた。
「八一七。現場の袋にも、その番号が書いてあった」
封印番号八一七。採取時の写真に写る袋と同じ番号だった。ところが押収車のテールランプを取り外したのは翌朝で、作業記録の袋番号も八一七。使い切りの連番シールが、二つの証拠品に重なるはずはない。
鷹羽は端末で原画像を拡大した。現場の破片には、青い塗膜が薄く付着している。現在の袋にある破片にはない。事故直後、現場を通ったのは犬飼の白い配送車ではなく、捜査一課の紺色の覆面車だった。九鬼が指揮した張り込み車両だ。事故の翌朝、その車は民間工場で右後部だけ修理され、整備伝票は「灯火点検」に書き換えられていた。外された部品の廃棄記録もない。
内線に文字が浮かんだ。
――袋を閉じろ。余罪を聞け。
犬飼は低く笑った。
「俺を助けろとは言わない。あんたらの車を助けるために、俺の車を壊したのかだけ答えろ」
鷹羽は答えず、証拠品庫の閲覧履歴を開いた。八一七を最後に解錠した職員番号は九鬼のものだった。これを出せば、ひき逃げ事件だけでなく、張り込み班の無届け行動も、署ぐるみの会見準備も崩れる。
鷹羽は調書を閉じた。現場写真、二重使用された封印番号、解錠履歴を一つの報告書に添付する。宛先を刑事課長から監察室へ変えた。
監視窓を見上げ、袋をカメラの正面に置く。
そして、送信キーを押した。