山崩れを背負う荷運び

鉱山町の背負い人ヴァルメロは、袋三つを運ぶだけの男と笑われていた。

戦士なら魔物を倒せる。魔術師なら岩盤を砕ける。だが彼が稼ぐ銅貨は、採れた鉱石を坑口から倉庫へ運ぶ分だけだった。鉱山主は荷を限界まで積み、膝をつけば日当から差し引いた。

成人の日に授かった技能も、地味そのものだった。

【担送:依頼人から預かった荷を、指定された届け先まで落とさず運ぶ。荷の重量は問わない】

「重量を問わないなら山でも背負ってみろ」

鉱山主は毎朝そう言って笑った。

その日、利益を急いだ発破が禁じられた地層を割った。山腹が低く鳴り、雪と岩と伐採木が町へ向かって一枚の壁になった。結界師の壁は最初の巨岩で砕け、騎士たちは逃げる群衆に踏み倒された。

鉱山主だけは金庫を抱え、坑道を開けろと叫んだ。町を捨てても鉱脈は守れ、と。

老村長はヴァルメロの前へ立ち、震える指で迫る山を示した。

「長いこと、あれの重みを町のみんなで背負ってきた。今だけ、お前に預けたい。届け先は東の廃坑谷だ」

依頼は成立した。

ヴァルメロは町の境界石へ背を向け、使い古した革帯を両肩へ掛けた。帯の先は光の縄となって山腹へ走る。彼が腰を落とすと、町を呑むはずだった雪崩が地面から浮いた。

岩も雪も濁流も、巨大な一つの荷となって彼の背後へ束ねられる。

「山なんて運べるものか!」

鉱山主の叫びを置き去りに、ヴァルメロは十二歩進んだ。十二歩目が東の廃坑谷へ届いた瞬間、背負われていた山崩れは空の谷底へ静かに下ろされた。

町には雪の粉だけが降った。誰も潰れず、老村長の帽子さえ落ちなかった。

鉱山主の金庫だけが、避難路の真ん中で置き去りになっていた。

鉱山主は命令書を振り回したが、坑夫たちは初めて背を向けた。彼らはヴァルメロの革帯を支え、未払いの日当台帳を金庫から取り戻す。老村長は町の運搬記録、その最上段へ彼の名を書いた。山を失ったのではない。今日、町を取り戻したのだ。

《職業が【背負い人】から【天嶺担送王】へ書き換わりました》