帰る鍵は人数分
辺境伯エルヴァンが赴任した村では、麦倉の軒下に三人の孤児が眠っていた。空き家は六軒もあるのに、持ち主が戦で死んだため、誰も「勝手に使って責任を負いたくない」と戸を閉ざしていたのだ。
夜明け、最年長のルカが妹のマヤに麻袋を掛け直すのを見て、エルヴァンは村会を開いた。ただし命令書ではなく、一枚の板を持ち込んだ。
「空き家一軒を共同所有にする。修繕費は市場で品が十個売れるごとに銅貨一枚。徴収額、使途、残金は毎夕この板に書く。払えない者は、大工仕事一刻を銅貨一枚として選べる。孤児だから無料なのではない。子どもは将来、ここで暮らす住民だから、今の負担を皆で前払いする」
商人が眉を上げた。
「領主様の屋敷からは?」
「市場で買った品の数に応じて、私も同じ率で払う。例外欄は作らない」
最初に立ったのは、いつも税を嫌う陶工だった。
「なら、割れ損ねの瓦を出す。板には正価でなく、使える枚数を書け」
次にパン屋が窓枠の油を、羊飼いが敷布を申し出た。誰も「やれ」と言われていないのに、板の空欄が次々と埋まった。ルカたちも釘を運び、床を掃き、自分たちの部屋の壁を淡い黄色に塗った。
途中、隣家の女主人が「騒がれたら困る」と申し出た。エルヴァンは黙らせず、夜の静穏時間と苦情の手順も同じ板へ加えた。苦情は子ども本人のいない場で罰に変えず、住人会で確認する。代わりに女主人も、家の裏口から井戸へ抜ける近道を子どもたちへ開放した。
三日後、古い家は小さな共同住宅になった。食事も監視も一括にはしない。台所当番は希望制、門限は年齢ごとに子どもと相談して決める。何より、寝床を失う罰だけは禁止した。
村長が一本の鍵を差し出すと、エルヴァンは首を振った。
「三本だ」
鍛冶屋が笑い、同じ形の鍵を二本削った。ルカは自分の鍵で戸を開け、マヤは自分の鍵で閉めた。末の弟も、小さな指で鍵を握った。
扉の脇には、子どもたちが自分で書いた木札が掛かった。
――ただいまと言える家。