帰還者だけの片道切符
迷宮都市の地下十八階で、帰還石が砕けた。
天井は崩れ始め、転移陣は魔力切れ。重傷者を含む十二人を連れて、地上まで走れば三時間。崩落までは十分もない。
「荷物持ちのユーリスを置いていけば、少しは速くなる」
隊長の提案に、誰も反論しなかった。最後尾で皆の荷を背負ってきた俺だけが、当然のように人数から引かれる。
俺の腰には、空になった帰還石の袋がぶら下がっていた。自分の分まで新人へ渡し、砕けた石も修理用に回した結果だ。誰も、そのことには触れない。
その瞬間、視界に青い窓が開いた。
《条件達成:生還を他者に譲り続けた者》
《主人公専用排出枠を解放》
《一度だけ実行できます》
必要な物は決まっていた。全員を地上へ戻す手段だ。俺は迷わず押した。
光の中から落ちたのは、黄ばんだ紙切れだった。
《片道切符》
《行き先:あなたが帰るべき場所》
《使用者が同行を望む者を、同じ目的地へ運ぶ》
隊長が鼻で笑う。
「紙切れ一枚で十二人を?」
俺は切符の端を破った。
乾いた音と同時に、迷宮の轟音が消えた。次に足裏へ戻った感触は、石ではなく地上広場の煉瓦だった。倒れていた治癒術師も、泣いていた新人も、担架ごと全員いる。さらに、置き去りにされていた採掘班三十七人まで広場に転がり出た。
切符が選んだ「同行を望む者」は、俺が助けたいと思った者だけではなかった。地下で「帰りたい」と願い、俺の帰還を望んだ者すべてだったのだ。
迷宮入口が地鳴りとともに塞がる。あと一秒遅ければ、誰も間に合わなかった。
隊長は俺の袖をつかんだ。
「待て。今の道具をもう一度――」
「一度だけです。それに、次の隊では俺を人数に数えてくれる所へ行きます」
俺はその手を外し、助けた採掘師たちの方へ歩いた。彼らは誰からともなく道を空け、中央に俺の席を作っていた。
そこで消えかけた紙片が金色に反転する。
《真名解放:神話級遺物〈万人帰郷券〉》
《世界初取得者――ユーリス・ノア。帰還対象、四十九名。欠員、零》